伝わる海外セミナー&イベント【教育工学博士のMCが認知科学で紐解くプレゼンビジュアルとファシリテーションの改善策】
多くの国際イベントや、グローバル企業が集まる海外向けのイベントやセミナーでバイリンガルMCを務めていると、ステージの上から「もったいないな」と感じる瞬間に度々遭遇します。
それは、主催する団体や組織の方々がどれほど素晴らしい知見や素材を持っていても、スピーチやプレゼンテーションの「見せ方」や「伝え方」のせいで、聴衆の集中力やエンゲージメントが切れてしまっている瞬間があるからです。
筆者はMCとしての現場経験に加え、英国の大学院で教育工学の博士号を取得し、認知科学と体験学習デザインの観点から「いかに効率よく情報を受け手に伝えるか」を研究してきました。
今回は、数々のイベントに様々な形で関わり観察してきたプロの視点から、セミナーやプレゼン、海外向けイベントの成果を台無しにしてしまう「よくあるNGパターン」と、それを科学的に最適化するための改善ポイントを解説したいと思います。
認知科学で紐解く、海外向けセミナーや英語プレゼンでよくある「伝わらない」原因
教育工学の分野では、人により効率的に情報を伝え、感情を動かし、記憶を定着するメディアやテクノロジーの使い方が長年研究され、データに基づく認知心理学原理やデザインフレームワークが多く確立されています。それにも関わらず、セミナーやイベントの現場では伝わらないプレゼンテーションが繰り返されているます。
視覚チャンネルでの文字情報が多すぎる
おそらく多くの人がやったことのあるスライドの失敗は、会場スクリーンに表示されるに文字を多く詰め込み過ぎてしまうというものではないでしょうか?
スライドにびっしりと文字が書かれており、登壇者がステージでそれをそのまま読み上げていてつまらなくなっているケースもあれば、書かれている文字と喋っていることが一致せず、視聴者が話を聞くのも読むのも中途半端になっているケースもあります。
また、日本語の入った図解しかないからといって、無理やり英語を書き足した図解でプレゼンを行うケースもありますが、これは視覚的混同を招くため、フォトショップで必ず日本語を消してから英語に変えていただきたい!
認知科学において、視覚情報と言語情報は別のチャンネルで受け取られることが知られています。
視覚情報に文字を使い、聴覚情報で同じ言葉を打ち込んでも、伝わる情報量は1のままですが、視覚チャンネルを使って伝える情報を図解や画像に置き換え、聴覚チャンネルでその言葉による説明を打ち込むことで、情報の理解や記憶の定着を1以上にすることができることができます。
人間が最も集中できるのは、映像と音声の両方が完璧にリンクして提供されるマルチモーダルな環境。せっかくスクリーンもスピーカーもあるのですから、両方のバランスを最適化させて使ってください。
複数の新情報を同時に投入して混乱させる
人間の短期記憶が一度に処理できる情報の数は4±2などと言われていますが、イベントのような情報過多の空間で2つ以上の商品を一度に出して、それらの間を行ったり来たりしながら説明するパターンは多くの場合混乱を招きます。
これは私が実際バイリンガルMCやモデレーターとしてイベントやセミナー、座談会などをやっていて思うことなのですが、聴衆の注目を分散させず、確実に情報を伝えたいなら、絶対に「ひとつずつ、はっきりと区別できる形」で提示すべきです。
特に日本人の英語での拙い説明を聞かなければいけない海外むけのプレゼンなどでは、どちらがどちらの情報なのかを識別しようとするだけで、短期記憶の容量がとられるので、1つの画面につき1つの明確なメッセージ(One slide, One message)の鉄則を守るようにしましょう。
一つのモダリティに頼りすぎる
会場スクリーンに1つのスライドを出したまま、抑揚のない一本調子で長いスピーチを続けていませんか?
長いスピーチは聞き手の集中力が切れてしまうため情報が伝わりません。たくさん伝えたい情報がある時は、セクションに分けて提示するのが鉄則です。
また、抑揚のない発話では、文意を正確に伝えることができません。イントネーションやアクセントは、言葉の意味を受け取るのに重要な役割を果たしています。スピーチの練習をするときは、発音以上にイントネーションを意識してください。
さらにイベントのような騒音の絶えない環境では、一つのモダリティでは、人と話していて聞き逃したり、よそ見をして見逃したりしてしまう可能性があります。そのため2つ以上のモダリティを使うことでどちらかのチャンネルで受容してもらえる確率を高めることができるのです。
前述のように、人間が最も集中し、記憶を最大化できるのは、映像と音声の両方が完璧にリンクして提供されるマルチモーダルな環境です。スライドとスピーチの組み合わせだけでなく、ハンドアウト、現物なども含めた複数のモダリティの組み合わせを考慮した設計が不可欠です。
さらに言えば、視覚、聴覚のチャンネルだけではなく、五感を使う演出も複数の認知チャンネルに訴えるチャンスを広げることができます。
もし自社で持ち合わせている最適な写真や図解などがないとなれば、AIや簡単なベクトルアニメーションや3Dモデルを作って提示することも可能な時代です。マルチモーダルを基本に演出を考えてください。
聞くべき理由が提示されない
教育工学では、成人が新しい情報を習得するとき、その情報を聞くべき理由、つまり動機やモチベーションがその記憶の定着を大きく左右することが知られています。
どれほど綺麗なデータや優れた研究成果を並べても、聴衆が「なぜ今、この話を聞く必要があるのか」を自覚していなければ、その情報は伝わらないのです。
プログラムの導入部分で、視聴者の立場から想像した聞くべき理由や、答えを知りたくなる疑問など、もっと見てみたいと思わせるフックを必ず設けてください。
疑問を持って聞き始め、それが解決したとき、人の脳内にはドーパミンが放出されます。すると人はそのことをよく記憶することができると言われています。
それは、論理的なものに限らず、ただ美しくてもっと見ていたいという映像でも構いません。ドン・ノーマンの感情デザインの3つのレベルというモデルがありますが、感情を掻き立てるようなデザインが情報をより効率的に伝わることが知られています。
論理的構造と一貫性がない
セミナーやイベントに明確な論理的構造と一貫性がないと、途中で視聴者が置いて行かれてしまいます。何を目的として、何を伝えようとし、何の情報を伝えるのか。その全体像が視聴者に見えていなければいけないのです。
日本の企業や組織がイベントをやると、この部署からこの情報を伝えてくれと言われたのでその通りに入れなければ、ということが重なり、論理的構造のない寄せ集めのプログラムが完成することがあります。
それでは聴衆は聞くモチベーションも見つけられず、話の流れにもついていけず、理解と記憶を最大化させるメンタルイメージを持つことができません。
組織内せいじを持ち込んで無茶な寄せ集めを作るのではなく、大きなストーリーとしてイベントやセミナーを展開してください。例えば、実際に視聴者が旅行をするシナリオに行き先ごとの詳細情報を盛り込む、当事者が問題解決をする過程を辿りながら技術を紹介する、など大きな流れを作ります。
その論理的構造と一貫したストーリーの中にマルチモーダルな臨場感を埋め込むことによって、聴衆は引き込まれ、理解そして記憶を形成するようになるのです。
教育工学博士が実践する、情報伝達を最大化する「体験学習デザイン」
これらの課題を解決し、グローバルイベントの学習効果やエンゲージメントを最大化させるために、私がプレゼン監修や英語での司会、ファシリテーションで取り入れているアプローチを紹介します。
シナリオと臨場感で引き込むストーリーテリング
ただのデータの羅列ではなく、聴衆が自分事として捉えられる「構成と階層」を作ります。例えば、単に「サービスの使い方」を説明するのではなく、「実際にユーザーが海外旅行をしている具体的なシナリオ」を設定し、そのプロセスを追体験してもらうような構成にします。臨場感を演出することで感情が動き、言語の壁を越えて記憶への定着率が飛躍的に高まります。
最新テクノロジーによるビジュアルの最適化
メッセージを最短で脳に届けるため、既存の素材の寄せ集めには頼りません。もし既存の素材に最適なビジュアルがなければ、生成AI、ベクトルアニメーション、3Dモデルなどを駆使して、その場に最も適した完全オリジナルのプレゼン資料や映像を、認知科学の成果をもとに制作します。
聞き取りやすいイントネーションで情報伝達を最大化
より正確な英語の発音、友好的で心を許しやすい話し声、騒音を逃れる高めのピッチ、そして抑揚を最大限に使ったスピーチ技術などを使い、発話における情報伝達を最大化しています。
モダリティの多様化
スライドとスピーチというパワーポイントを使ったプレゼンの枠組みに囚われず、動画、3Dアニメーション、空間音響、生成AI、XR、没入空間、紙、など幅広いモダリティを使い、人間の五感、視野、感情の起伏、記憶の定着などを考慮したイベント、セミナーデザインを手掛けています。
恣意的なデザイン
同時に、マルチモダリティの裏をかいた、「聞かせる演出」や「見せる演出」というのも存在します。つまり一つのモダリティに集中させることにより、聴衆の注意を研ぎすまさせ認知機能に訴えるアプローチです。伝えたい情報と、伝えたい相手を考慮して、最大の結果を出す方程式でイベントをデザインするのがベストと言えるでしょう。
教育工学博士のバイリンガルMCがイベントを監修
イベントでの情報伝達を最大化するためには、当日のスムーズな進行だけでなく、事前の「プログラム設計」と「プレゼン資料・映像の監修」が不可欠だと私は考えています。
しかし、主催者や登壇者自身が内部で資料を作ると、どうしても主観が入り、客観的な視点が抜け落ちてしまいがちです。第三者であり、ステージ上で何千人もの外国人聴衆の反応をリアルタイムで見ているバイリンガルMC、そして教育工学の専門家だからこそできる「情報の引き算」と「ビジュアルの最適化」があります。
- 海外向けセミナー・国際イベントプログラムの構成・タイムラインの監修、アドバイス
- 登壇者スライド、プレゼン資料の認知心理学的ブラッシュアップ
- イベント内で使用する映像・ビジュアル素材の企画・制作・監修(AI、3D、ベクトルアニメーションなど)
- 参加者のエンゲージメントを高める体験学習デザインの設計
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