メタバース(Metaverse)とは何か?なんだか掴みどころのない言葉のように感じる人も多いのではないでしょうか。「メタバース」は、現実と仮想現実が融合した空間を指す言葉で、リアルタイムでユーザー同士が互いにデジタルオブジェクトをやり取りできる場所を指します。
この記事では、イギリスの教育テクノロジー研究所で、複合現実(MR)を使った科学研究と科学教育の効率化についての研究をしている筆者が、メタバースの意味をわかりやすく簡単に説明してみようと思います。AppleやMicrosoftなどのテクノロジー企業のメタバース戦略についても記載しています。
メタバースの簡単な意味
メタバースを簡単な言葉でいうと?
「メタバース(Metaverse)」は、簡単な言葉でいうと「3D仮想世界のネットワーク」です。物理的な現実と仮想現実が融合した空間を指す言葉で、リアルタイムでユーザー同士が互いにデジタルオブジェクトをやり取りできる場所を指します。
ゲームやアニメだけに関するものではない
2021年にFacebookが会社名を「Meta」に変更し、メタバースに関連する計画を発表したことでメタバースという言葉を知った人もいると思います。この言葉は、もともと1992 年の SF 小説『Snow Crash』で、「メタ」と「ユニバース」を合わせた語として生まれ、SF文学や映画、ビデオゲームによって広まりました。
3Dの仮想世界と聞くと、ゲームやアニメーションなどの一部の業界と関係のある概念だと思う人も多いかもしれません。でもメタバースは、商業や教育、科学研究など、私たちの生活に密接に関わる分野の活動を革命的に変える可能性のあるものです。
VRヘッドセットやMRメガネなどで体験
メタバースは仮想現実(VR)ヘッドセット、拡張現実(MR)メガネなどの他、コンピューターやモバイルデバイスなどさまざまなデバイスを介して体験することができます。仮想体験と物理的な体験をシームレスに統合し、人々がデジタル空間で相互に関わり合い、働き、学び、遊び、創造することができる環境を提供しています。
ただ、メタバースは広大かつ複雑な概念で、最終的にどのように発展するかについてはまだ不明な部分が多い概念とも言えます。でもとにかく、私たちの生活や働き方、学び方、創造の仕方を変える大きな技術進歩となる可能性を秘めているとてもエキサイティングなものなのです!
メタバースの用途
メタバースはまだ開発の初期段階にあるものですが、急速に発展を遂げているエリアで、私たちのインターネットとの関わり方に革命をもたらす可能性も秘めています。
実際、コロナウィルスパンデミックで全ての経済活動がバーチャルの活動に切り替わったとき、パソコンの画面で見ることのできるもの以上の、もっとリアルで現実味を帯びた没入的な体験をしたいと思うことはなかったでしょうか?
現状でインターネットはバーチャルネットワーク上で私たちに素晴らしい体験をもたらしてくれています。でもそれ以上にリアルな体験を実現する、さらには現実を拡張したり、強化したりする空間、それがメタバースなのです。
メタバースの産業的利用
メタバースは、より没入的でインタラクティブな作業環境を構築することができます。仮想会議に参加したり、物理的に離れた場所にいる人たちが遠隔でプロジェクトの共同作業を行ったりすることもできますよね。
さらには、実習に危険が共なったり、反復が難しかったり、多額のお金がかかるようなスキルのトレーニングを行ったりすることもできます。より具体的には、軍事訓練や外科手術、科学実験や宇宙飛行士のトレーニングなどもこれに該当します。
メタバースの科学研究での利用
メタバース内でのリアルタイムシミュレーションは、科学やエンジニアリング分野で特に有用と考えられています。反復が難しいような医学実験や高価な機材を必要とする高エネルギー物理実験のようなものでも、プロセスを仮想的に再現し、異なる仮説を試すことで、科学研究を促進することができます。
さらに筆者が今取り組んでいる研究では、大量のデータを扱うバイオインフォマティックスのような分野で、メタバース特有の空間を使い人間の認知により適したデータの可視化を図ることで、研究者たちの思考や仮説設定のプロセスを効率化することを考えています。
メタバースの教育的利用
メタバースを活用することで、仮想空間内で現実世界を再現した学習環境に没入することができます。博物館や史跡などの歴史的な場所を訪問したり、科学的なコンセプトを仮想的にシミュレーションしたり、人体模型などの立体的なモデルを使って学習することで、より深い理解を得ることができます。
さらにメタバースを使った遠隔教育は、物理的な場所に依存せずに学習を可能にします。病気になったり、育児や介護で自宅にいなければいけなかったりする場合でも、仮想教室内でよりリアルな講義を受けたり、ディスカッションに参加したりすることができるわけです。
メタバースの商業的利用
メタバースは、新しいショッピングの体系を提供することもできます。 ユーザーは家から出ることなく仮想店舗を閲覧したり、服を試着したり、家具を自宅の部屋に配置してみたりしながら、商品を購入したりすることもできるようになります。
エンターテイメント
メタバースは、エンターテイメントの分野でも大きな可能性を持っています。ビデオゲームや映画、アニメなどをより没入的かつインタラクティブに視聴することもできるようになるはずです。
普段私たちが撮影しているような写真や動画も3Dに変わっていくかもしれません。iOSのLiDARスキャナーもその一歩ですが、素敵な体験をよりリアルに記憶する新しい立体写真や動画の形式が生まれてくるのは時間の問題でしょう。
ソーシャルインタラクション
メタバースを使用すると、よりリアルな方法で友人や家族とつながることもできます。 ユーザーは仮想空間で集まって話をしたり、一緒に仮想イベントに参加したりすることもできます。Zoomなどの集まりが、3D空間でよりリアルになっていくことを想像してみてください。
筆者もイギリスで暮らしているので、パソコン画面上の体験以上にもっとリアルな形で日本にいる家族と繋がれるようになることを期待しています。
メタバースに使われるテクノロジー
メタバースという言葉を聞くと、ゲームなどに使われるVRを想像する人が多いかもしれませんが、このテクノロジーは決してゲームなどに限られたニッチな体験に留まりません。なぜならメタバースは、ARやMRと呼ばれるより広いテクノロジーを巻き込んで発展しているからです。
仮想現実 (VR)
VRヘッドセットは主にゲームなどに使用されるデバイスで、ユーザーは現実世界を遮断した仮想世界に没入することになります。完全に現実を仮想現実に置き換える形で仮想世界に身を浸すことができる技術です。
拡張現実 (AR)
ARはVRと違ってデジタルオブジェクトを現実世界に投影する技術で、現実世界と仮想世界を同時に体験することができます。ユーザーはバーチャルのオブジェクトも見つつ、現実世界も見ることができるため、目の前にあるものに説明を加えたり、指示を出したり、関連情報を表示したりすることができる技術です。
複合現実(MR)
MRは正確にはARとVRを総称する言葉ですが、筆者が最近の学術論文などを見ている限りでは、ARがスマートフォンやタブレットなどの画面ベースのARを指すのに対して、ヘッドセットを使った没入方のARを意味する場合に使われることが多くなってきているように感じます。どちらにしても、MRは仮想現実と現実の両方を指す言葉です。
メタバースはまだ開発の初期段階にありますが、急速に成長している分野です。メタバースに投資している企業は数多くあり、今後数年間でメタバースが私たちの生活の主要な部分になることは間違いありません。
大手テクノロジー企業のメタバース
では、大手テクノロジー企業はメタバースとどのように関わっているのでしょう?Meta(Facebook)、Microsoft、Appleのメタバース関連事業について少しみておきましょう。
Meta(Facebook)のメタバース
Metaは、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)技術を活用して、人々が物理的な制約を超えて相互に関わることのできる環境を構築することを目指すとしています。このメタバースは、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やビデオ会議を超えた、新たな形態のコミュニケーションとして位置づけられています。
MetaはMeta Questというヘッドセットも販売しています。これは値段もそれほど高くないものでVR専用のデバイスになります。ただ、下に記載するMicrosoftやAppleのMetaverseソリューションに比べるとスペックが低く、ARに対応していない分使い道も限られたものになります。
Microsoftのメタバース
メタバースというとMetaと思っている人が多いかもしれませんが、Microsoftも実はかなりメタバースに投資している会社だと言えます。筆者がやっている研究ではMicrosoftのHoloLensというMRヘッドセットを使っているのですが、このデバイスの話を知人にしてもほとんど知っている人はいません(苦笑)。
HoloLensは産業界や学術界ではそれなりに知られていて、医療関係のトレーニングや工学のトレーニングなどの現場でも実際に使われています。これは現実世界にあるものの上に、デジタルの情報を投影するAR技術を使っています。さらにMicrosoftはMicrosoft Meshというプラットフォームでもメタバースの関連事業を行なっています。
Appleのメタバース
Appleのメタバースについてもあまり知らない人も多いようですが、2023年6月に発表されたApple Vision Proという新しいタイプのデバイスがAppleのメタバース戦略に該当すると言えます。このデバイスはMRヘッドセットで、VRとAR両方の体験が可能です。Apple vision Proの詳細についてはこちら↓の記事をご参照ください。
[blogcard url = “https://yuko.tv/what-can-we-do-with-apple-vision-pro/”]
さらにApple Vision Proは「空間コンピューター」とも呼ばれていて、MRメガネをかけるだけでスクリーンがなくてもさまざまなデジタルコンテンツを見られるという新しい体系を実現しています。また発売前ですが、今後のメタバースの発展に大きな影響を及ぼすデバイスであることは間違いありません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?個人的にはメタバースはVR(仮想現実)ではなくMR(複合現実)が主流となって進んでいくのではないかと見ています。なぜなら、現実を仮想現実を置き換えてしまうよりも、現実をバーチャルコンテンツで拡張する方が、医療や工学などを含む人材トレーニングなどでの経済的付加価値が高いと見えるからです。
急速な発展を遂げているメタバースがこれからどのように発展していくのか、メタバースの端っこを認知科学の観点から見つめる研究者の卵として、筆者も目が離せません!