「空間コンピューティング」という言葉をご存知でしょうか?英語では「Spatial Computing」と呼ばれるもので、2023年6月にApple社が発表した新製品「Apple Vision Pro」によって、この言葉が一般にも知られるようになりました。
この記事では、イギリスにある教育テクノロジー研究所で、拡張現実(AR)と複合現実(MR)を使った科学研究と科学教育の効率化についての研究をしている筆者が、空間コンピューティング、空間コンピューターとは何か、わかりやすくその意味を説明しています。
空間コンピューティングとは何か?
空間コンピューティングを簡単にいうと?
空間コンピューティングとは何かを簡単にわかりやすくいうと、「ユーザーの周りの空間を使い、より自然な形でコンピューターと関わることができるようにするテクノロジー」です。
と言われてもピンとこないという人は、ひとまず以下の動画を視聴してみてください。
「空間コンピューティング」「空間コンピューター」という言葉は、「量子コンピューター」のようにコンピューターが機能する仕組みそのものもが従来のコンピューターと異なるというより、ユーザーとコンピューターの関わり方が従来のコンピューターと異なるものであることを示すものです。
空間コンピューターは従来のコンピューターと何が違う?
空間コンピューティングでは、拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR) などのテクノロジーを使用して、デジタルの情報が現実世界に重ねられます。 ユーザーはデジタルオブジェクトが自分がいるのと同じ物理空間に存在しているかのような体験することができます。
デジタルのキーボードやボタンなどもユーザーがいる空間の中に置かれているかのように表示されるため、物理的に存在するボタンを押したり、キーボードをタイプしたりするのと同じ要領でコンピューターを操作できるようになります。
さらに空間コンピューターでは、AIを使った自然言語入力やアイトラッキングなどの技術も使われるため、マウスやキーボード入力での操作が一般的だった従来のコンピューターよりも自然に、コンピューターと「対話」することができます。
空間コンピューティングのテクノロジー
空間コンピューティングは、より自然で没入的にコンピューターを操作し、対話できるようにするテクノロジーの総称ですが、それを実現するためにはさまざまな最先端技術が使われています。空間コンピューティングに密接に関わる主要な概念とテクノロジーには、次のようなものがあります。
拡張現実 (AR)
ARはデジタル情報を現実世界に重ね合わせ、物理的環境にあるデジタルオブジェクトを見たり触れたりして操作できるようにするものです。ARのデジタル素材には、画像、テキスト、3D モデルなどがあり、従来はスマートフォンやパソコン上で見ていたデジタル情報を、私たちの存在する空間に仮想的に「置く」ことを可能にしています。
仮想現実 (VR)
ARとは少し異なり、VRは現実世界を遮断し、コンピューターで作られたバーチャル環境に完全に置き換えることで、ユーザーが没入的な体験をできるようにする技術です。ユーザーはシミュレートされたデジタル世界に送リコ希、そこで動き回ったり、ものに触れたりすることができます。
複合現実 (MR)
MRはVRとARを総称する言葉としても使われますが、デジタルオブジェクトと実際に存在するオブジェクトがリアルタイムで相互作用するような環境を指すことが多くなってきています。 このテクノロジーにより、仮想要素と現実世界の要素をよりシームレスに統合することができます。
空間認識機能
空間コンピューティングは、ユーザーの周りに実際にある物理的な環境をマッピングして把握する能力に依存しています。 カメラやセンサーなどを使い、壁や机など周囲にあるものの形状や特徴が捉えられ、それに基づいてデジタルオブジェクトの正確な配置を実現にします。これによって物理的な机の上にバーチャルのリンゴを置くなどが可能になるわけです。
ハンドトラッキング
空間コンピューティングでは、物理的なキーボードで入力したり、マウスをクリックしたりするのではなく、空間にあるインターフェイスを操作することで、ユーザーが意思をコンピューターに伝えます。それを実現するために、ユーザーの手の動きを追うハンドトラッキングが使われ、バーチャルのインターフェイスにコマンドを伝えることを実現します。
アイトラッキング
空間コンピューティングにはアイトラッキング機能も含まれることが多くあります。ユーザーの目の動きを追うことで、ユーザーはデジタルオブジェクトを見るだけでメニューを見たりボタンを選択したりといった操作が可能になります。
音声コマンド
空間コンピューティングには、音声コマンドなどの自然なユーザーインターフェイスが含まれています。ユーザーはより直感的でハンズフリーな方法でデジタルコンテンツを操作できます。これには、音声認識だけではなく、分野に特定したマシーンラーニングによる自然言語のAIなども使われています。
空間コンピューターのデバイス
空間コンピューティングは、デジタル現実と物理的現実の融合を可能にするさまざまなデバイスやテクノロジーによって可能となっています。 空間コンピューターと考えられるものには以下のような種類のデバイスがあります。
複合現実 (MR) ヘッドセット
Apple Vision ProやMicrosoft HoloLensのようなデバイスは、複合現実(MR)ヘッドセットと呼ばれています。これらのMRヘッドセットを着用すると、バーチャルのテキストやグラフィック、モデルなどが現実世界と融合し、デジタルオブジェクトがリアルタイムで、実在する物理オブジェクトと作用し合う環境が作り出されます。ユーザーはこの統合環境で、バーチャルオブジェクトと現実世界のオブジェクトの両方を似たような感覚で操作することができます。
拡張現実 (AR) メガネ
拡張現実(AR)メガネと呼ばれるものも複合現実(MR)ヘッドセットと似ていますが、このタイプのデバイスは主にユーザーが見ている現実世界に、デジタル情報をオーバーレイするような設計がなされています。 拡張現実(AR)メガネは、状況に応じて関連する情報を表示することで、ユーザーの現実認識を高めることを目的としています。Magic LeapやMicrosoft HoloLensがこの種類のデバイスとして分類されることもあります。
仮想現実 (VR) ヘッドセット
ゲームなどに使われることでよく知られているMeta Quest、Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VR などの VRヘッドセットは、ユーザーを完全なバーチャル環境に没入させるようにデザインされています。VRは主にデジタル世界の体験に焦点がありますが、一部のデバイスにはユーザーが物理的な空間に置かれたバーチャルオブジェクトと対話できるようになっていて、空間コンピューティングの要素も組み込まれています。
スマートグラス
Google GlassやVuzixなどの一部のスマートグラスは、ユーザーの視野に組み込まれた小さな画面にデジタル情報を表示する、基本的な拡張現実機能がついています。複合現実(MR)ヘッドセットほどのレベルではありませんが、空間コンピューターとしての要素が含まれています。
空間コンピューターの使い道
空間コンピューティングの使い道は非常に多岐にわたるもので、映画やドラマシリーズの視聴といったエンターテイメントから、教育、ヘルスケア、建築、デザイン、製造などを含むさまざまな業界に及びます。以下それぞれの分野においての使い道を簡単にリストアップしておきます。
エンターテイメント
空間コンピューティングを使用して、ゲーム、ホームシネマ、バーチャル観光、家族や友人との集いなど、多様なエンターテイメントを臨場感あふれる形で実現できます。
教育
空間コンピューティングを利用すると、バーチャル解剖やシミュレーションなどのインタラクティブな学習体験が可能になります。博物館や史跡訪問など課外学習のような体験を教室にいながら行うこともできます。
医療
空間コンピューティングは、外科医のトレーニングや遠隔医療支援、患者への治療計画の説明などに利用することができます。バーチャルの患者を使った手術の実習なども安全に行うことができます。
建築
建築家やエンジニアは空間コンピューティングを利用して、建築物やその他の構造物の設計をより視覚化しやすくなります。これは映画のセットデザインやカット割、インテリアデザインなどにも応用が可能です。
製造
空間コンピューティングを利用して、製造環境の生産性、品質管理、安全性を向上させることができます。アセンブリー作業の効率化などはすでに現場での研究実験もたくさん行われています。
小売
空間コンピューティングを使用して、遠隔ショッピングや不動産購入が可能になります。服を試着してみたり、家具を自宅に配置してみたり、不動産を見学したりといったことが全て自宅でできるようになります。
軍事訓練
空間コンピューティングを利用すると、軍事訓練や軍事活動も効率化を図ることができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?空間コンピューティング、空間コンピューターについて少しイメージが掴めたかと思います。
空間コンピューティングは、空間関係を考慮してデジタル情報をユーザーがいる物理的環境と融合させることで、没入的で直感的なユーザーエクスペリエンスを生み出すものです。簡単に例を見ていただいた通り、さまざまな分野においての応用が可能です。
空間コンピューティングはまだ発展の初期段階にありますが、急速に進化しているテクノロジーでもあります。 テクノロジーが成熟するにつれて、メタバースにおいてますます重要な役割を果たすようになると思われます。今後の動向から目が離せません!
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