日本人にとって、イギリスの不動産投資はそれほど馴染みがないかもしれません。アジアや南ヨーロッパ諸国などに比べると、原価が高いため不動産投資としては利益幅が少ないと思いがちかもしれません。
しかし、データを見てみるとイギリスの不動産投資が満更でもないことがわかります。私も最近、憧れだったビクトリア時代の庭付き物件を購入しました!
この記事では、投資目的でも、憧れのイギリスの物件所有を目指す目的でも、不動産を購入する際に知っておきたいことについてまとめてみたいと思います。
イギリスの不動産を買う理由
安定して上がり続ける物件の価格
以下のグラフは2006年から2021年のイギリスの家の平均価格の推移を示したものです。2009年にはリーマンショックで一度価格が下がったものの、その後順調に持ち直し、EU離脱の影響も、コロナ禍の影響も乗り越えて上昇を続けています。
いつかバブル崩壊を起こすだろうと言われてきたイギリスの不動産ですが、それからかれこれ10年以上の間、順調な上昇傾向を保ち続けています。世界経済がコロナウィルスの影響を受けたこの1年ほどの間にも、不動産価格は下がるどころか急激な上昇を記録しました。
もちろんその背景には税に関する政策などもありますが、2020年4月から2021年3月の1年間に、イギリスの不動産価格は10.2%も上昇したことが政府の発表で知られています!
世代間の経済格差
イギリスの不動産価格の上昇は、世代間に大きな経済差を生み出しているともいわれ、70年代生まれで不動産を持つ人たちは、80年代生まれの人たちに比べて2倍もお金持ちだと言われています。
さらに若い世代の人たちの場合は、就職してローンを組むための頭金を確保する頃には不動産価格が手の出ない値段になっているということから、遺産がなければマイホームを持てないとも言われているほどです。
価格が上がり続ける理由
だからと言って、マイホームを持たないという選択肢はありません。イギリスの不動産は居住目的で購入しても値段が下がらないことを前提とした投資の意味合いが強いです。
よって、賃貸住宅の家賃を払っていればキャッシュを水に流すようなものなのに対し、安い金利を味方につけてローンを組んだ場合10年後、20年後に家を売却して利益を見込めるという信念のもとに若い世代から不動産取引が盛んに行われているのです。
さらに、ロンドンなど人気の高いエリアの住宅は慢性的に不足傾向にあり、人口は増加を続けているという図式の中では、なかなか不動産価格が下がらないというのが多くの金融機関の予測データの示すところなのです。
イギリスの不動産の探し方
では、イギリスで不動産を購入しようと思ったら、どのように探せば良いのでしょう?
Rightmove
もちろん、イギリスにもたくさんの不動産屋が存在していますが、見るところは「Rightmove」というサイト1つだけと言ってしまって問題ないと思います。なぜなら、大手の不動産屋は全てこのサイトに物件をリストアップしているためです。
このサイト内で条件検索をかけ、気に入った物件があれば、その物件を担当している不動産屋の独自サイトを見てみる、あるいは連絡をしてみるという手順になります。不動産屋独自のサイトも確認するメリットとしては、載っているリスティングが同じでも、売却済みなどの情報がRightmoveには更新されていないことがあるからです。
Zoopla
もう一つ見ておくべきサイトがあるとしたら「Zoopla」です。このサイトでもRightmoveと同様に物件検索をかけることができますが、基本的にこちらのサイトに載っている物件はRightmoveと同じなので、両方をチェックする必要はないでしょう。
ではなぜZooplaを合わせて見る必要があるのか?それは、このサイトには各物件の予想価格と、過去の取引価格の履歴が載っているからです。イギリスでは不動産屋による価格評価がほぼ市場価格であることがほとんどですが、それでも過去の取引や、同じストリートの物件の価格などによって価格が変わるため、確認しておく価値があるのです。
イギリスの不動産チェックポイント
写真や値段などから気になる物件を絞り出したら、もう少し細かい点をチェックしていきます。もちろん個人によって洋服の趣味が違うように、不動産の好みも人それぞれですが、不動産購入には投資の意味がある以上、物件の価値を左右するいくつかの点を確認しておく必要があります。
ピリオドプロパティか
日本で不動産を買うとなると、新しいことが価値を持つことが多いかもしれません。新築物件に比べて築30年などとなると、なんだか古びて感じられますよね。でも、イギリスではビクトリア時代やジョージア時代、エドワード時代などに建てられた、「ピリオド・プロパティ」と呼ばれる築100年以上になる物件の人気も落ちることがありません。(下の写真は美しく保存されているビクトリア時代のテラスハウスです。)
これは、天井が高く窓が大きいなど建築様式が美しく、また造りがしっかりしていることの他に、新しく建てられることのない歴史ある建造物のため、希少価値も高いとして人気が高いのです。
逆に1950−60年代頃に建てられた物件は、現代の人にとっては醜い建築と感じるものが多いようで、値段が少し下がります。天井が低く、スカーティングボードがなかったりと少し安っぽい雰囲気の内装であることも多いようです。
自分の美的感覚に訴えることも重要ですが、再び売りに出す時のことも考えて、イギリス人に人気のある建築様式の不動産を選ぶというのが、重要なポイントになります。
ディタッチトかテラスか
コロナ禍でロックダウンの時でもプライベートに外気を吸うことのできる庭付き物件の人気が上がったことは言うまでもありません。でも、イギリスでには庭付きとはいえ一戸建てではない物件がたくさん存在します。
観光で訪れるロンドンの街並みを想像していただいてもわかると思いますが、同じ作りの家が両壁を共有した状態でずらりと並んだ家々のイメージがあるのではないでしょうか。このような物件はテラスハウスと呼ばれます。
一方片側だけの壁を隣の家と共有した住宅は、セミディタッチトハウスと呼ばれ、さらに完全に独立した一戸建てをディタッチトハウスと呼びます。ロンドンの中心街などでディタッチトの家はほとんどありませんが、もちろんプライバシーの観点からも独立した家の方が値段が高いということになります。(下の写真はセミディタッチトの家です。)
フリーホールドかリースホールドか
もう一つ、物件のリスティングを見る際に注目していただきたいのが、フリーホールドかリースホールドかという点です。これは、物件が建っている土地が、自分のものになるか、あるいは借地であるかという違いです。
マンションなどの場合、フリーホールドでも他の住人と共有での所有権となるような場合もあります。こちらも建築物とともに土地も所有できるフリーホールドの方が価値が高いことになりますが、庭付きの家でも必ずしもフリーホールドとは限らないので注意しておきたいところです。
ロフトコンバージョンやエクステンションの可能性
イギリス人はリノベーションが大好きです。古き良き時代の建築物を購入して、内装をモダンにするというのがトレンドでもあります。イギリスの伝統的な家の一階部分は、ストリート側に玄関があり、まずリビングスペースがあります。続いて奥に進むとダイニングスペースがあり、一番奥にキッチンがあってその後ろに庭があるという間取りになっています。
元々の間取りでは機能別に部屋が別個に分かれているのですが、最近のトレンドでは間の壁を取り払ってオープンスペースにしてあることも少なくありません。さらにはキッチンを移動させたり、広げたりして、庭に面した壁をバイフォールドドアにして、庭との間にデッキングを作って屋内から屋外への流れを作った家が一番おしゃれな形と考えられています。
このようなリノベーションがすでに施されている家は値段が高くなりますが、まだ改装をされていない場合は自分で行って家の価値を上げることも可能です。さらに屋根裏を改装してベッドルームを増やすことをロフトコンバージョンと呼び、これもまた物件の価値をあげる人気の高いリノベーションになります。
リノベーションには、プランニング・パーミッションと呼ばれる許可書を行政から取得する必要があります。よって改装が可能かどうかを事前にチェックするのも家の価値の判断材料の一つとなります。
庭の方角
お天気が悪いことの多いイギリスでは、庭の方角がかなり重要になります。特に冬場は午後3時頃には日が沈み始めて暗くなるため、南向きの庭のある家は価値が高くなります。
続いて人気なのが西向きの家でしょう。夏場は午後10時頃まで明るいこともありますので、庭でバーベキューパーティーをしようという時には、遅くまで庭に日が当たる西向きの家の人気が高いのです。日本では西日が入って暑いと思うかもしれませんが、イギリスではそれくらいが丁度良いのです。
不動産屋のサイトを見ていると、庭が北向きの家はスペックが高くても売れ残ってしまうことが多いようです。周囲が建て込んでおらず、庭が十分な長さのある物件であれば良いと思いますが、少し注意が必要かもしれません。
その他の障害となるもの
私自身が家探しをする中で、本当にさまざまな物件に出会いました。気にならない人には問題ないのかもしれませんが、お墓の目の前の住宅や、裏庭の真下に線路が通っている物件、下水処理場の近くなど挙げればキリがありません。
さらに、路駐が基本のイギリスですから、物件に駐車スペースがない場合は、その家のあるストリートが駐車可能な道路かどうかというのも問題になります。また、カウンシルハウスと呼ばれる低所得住宅が近くにあるのもあまり好まれません。
良い公立学校の学区にあるかどうかという点も、不動産価格に影響を与える重要な要素の一つです。もちろん全てを満たす物件を見つけるのは難しいですが、どの部分で妥協するか、しっかりと自分のなかで吟味することが大切だと感じました。
イギリスの不動産の購入過程
さまざまな条件をクリアしたお気に入りの物件が見つかったら、購入のための手続きを進めていきます。
ビューイング(見学)
気になる物件が見つかったら、その不動産物件を担当しているエステートエージェント(不動産屋)に連絡を取り、ビューイング(見学)の希望を出します。ビューイングは無料ですので、たくさん見比べながら審美眼を養うのもありです。20軒、30軒と不動産を見てまわったという友人もいます。私はネット広告の時点でかなり絞ってから見学をしたので、実際に中に入れてもらってのビューイングは3軒だけでした。
人気の高いロンドン近郊のエリアだと、1回のビューイングのスロットが15分程度のこともあります。確認したいポイントを事前に明確にしておくと、効率よく物件の内部の確認を進めることができます。1回目のビューイングで気に入れば、2度目、3度目のビューイングの希望を出して、後からより細かい部分をチェックすることもできます。
オファー(購入希望額の提示)
ビューイングで実際に物件の内部を確認し、また周辺エリアを歩いて周るなどして気に入れば、オファーを出してエージェントに購入希望額を伝えます。不動産屋の広告に出ている額はアスキングプライスと呼ばれ、オファーをする際の基準となりますが、必ずしもその額を提示しなければならないわけではありません。アスキングプライスよりも低い額からスタートして、セラー(売り手)と交渉することも可能です。
ロンドンの人気エリアなどの場合は、セラーは複数のオファーを受ける場合も少なくありません。その場合は、もちろん一番高い額をオファーしたバイヤー(買い手)のものとなります。よってビューイングの際に、その物件の競争率がどれくらいなのかを聞いておくと、アスキングプライスに対してどれくらいの額をオファーすれば良いか目処をつけることができます。
売り手と買い手それぞれにエージェントがつくアメリカとは違い、イギリスでは売り手と買い手の間に入るエージェントは1社だけです。エージェントは必ずしも売り手の味方をするということにはならず、取引が成立するように仲介をしてくれるという立場になります。よって、正直に質問をぶつけて情報収集をして問題ないでしょう。
セラーがこちらのオファー額を低すぎると感じた場合には、カウンターオファーという別の額を提示してくることがあります。うまく交渉しながら希望額に近い値段で物件を競り落とせるといいですね。オファーが受け入れられると、オファーレターと呼ばれる文書がエージェントより発行されます。
サーベイ(物件の構造的調査)
オファーレターは、これ以上他のバイヤーとの売買交渉をしないという口約束のような役割を果たしますが、売り手買い手の双方に法的に購入や売却を強制するものではありません。法的な契約を結ぶ前に、買おうとしている物件に、構造的な問題などがないかをチェックするために行われるのがサーベイ(Survey)です。
ローンを組む場合は、金融機関が自身のリスク把握のためにサーベイを求めてきます。ローンを組まない場合は、サーベイ会社に連絡して、資格を持つサーベイヤー(Suveyer)に物件の調査を依頼します。
最低限として数百ポンド程度の安いサーベイもありますが、通常ボイラーやガーター、カビや住宅の周りに侵食している植物などまで調べるもう少し大掛かりなサーベイが行われ、1000ポンド程度の料金が相場になります。
サーベイの料金はバイヤーが支払うため、万が一大きな問題が見つかって購入を断念する場合、その分のお金は捨てることになってしまいますが、それでも数千万円、数億円という投資をしてから問題が判明するよりは、サーベイの段階で投資をやめる方がずっと懸命と言えるでしょう。
ただ、先にも書いた通り、イギリスの人気物件は築年数が100年以上のものもかなりあります。よって、サーベイで多少の問題が浮上してくることは覚悟しておいてください。修理やリノベーションにかかるコストと、投資価値を見極めることもイギリスの不動産購入には大切なステップです。
サーチ(物件の行政的調査)
サーベイでも大きな問題が見つからず、購入の手続きをさらに進めることになった場合、今度はコンベイヤンサー(Conveyancer)と呼ばれる弁護士に連絡を取ります。この弁護士は、セラーとの契約書の交換まで担当してくれますが、その前に土地登記所や自治体などに連絡をして、物件のより正確なリスク評価の調査を行ってくれます。
この調査には、土地の正確な区画区分、環境汚染や洪水のリスク、下水溝へのアクセスや道路や路線工事の計画がないかといった、周辺地域に関するさまざまな情報が含まれています。これは弁護士が行政に連絡をして取り寄せなければいけない資料が多く、行政の対応が非常に遅いため時間がかかることが多いと言われています。
また、信頼できるコンベイヤンサーを見つけるのも、なかなか難しいと言えます。私の使った弁護士は、ケアレスミスが目立ったものの、最終的には大きな問題もなく購入を終えることができました。ですが、友人たちの多くからは、とんでもない弁護士がたくさんいる話がいくつも出てきますから、サーチ自体よりも、弁護士選びこそ、気をつけるべきポイントの一つと言えるでしょう。
エクスチェンジ(契約書交換)
サーチでも大きな問題が見つからなければ、コンベイヤンサーを通してセラーと契約を交わします。エクスチェンジと呼ばれる契約交換をすることで、初めて売買に関する法的な義務が生まれます。
エクスチェンジの前に必要なものとしては、自分の弁護士のところに購入額の全額(ローンの場合は銀行からの借用金)が送金されている必要があります。また、エクスチェンジの時点で、実際に物件に引っ越すわけではありませんが、いつからその物件の名義がセラーからバイヤーに引き渡されるかの日付を決めて合意します。
物件の引き渡し日程を延期することは可能ですが、罰金が発生することがあるので注意してください。さらに、契約交換の後で購入を取りやめることはできませんので、エクスチェンジは非常に重要なプロセスであることを念頭に置いて文書に署名をするようにしてください。
コンプリーション(鍵の引き渡し)
ここまで長いプロセスを辿ってきましたが、物件の鍵をエステートエージェントから受け取って、やっと不動産購入が完了となります。これでその物件はあなたのものになるわけです。
ガス電気会社の情報など、家に関して知りたい情報などは、エージェントを通してセラーから聞いておくようにしましょう。私の場合は、購入の過程でセラー夫妻と仲良くなってしまったので、引っ越して数ヶ月経ってからもブレーカーの場所が分からないなどという場合は、気軽に直接メッセージを送って聞いています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?イギリスの不動産購入についての概要をご理解いただけたのではないかと思います。イギリスの物件購入をお考えの際に英語でのコーディネートやサポートが必要な方は、コンタクトページよりお気軽にお問い合わせください。
イギリスに憧れを持っている方、ピリオド・プロパティは本当に素敵な物件があるので、ぜひ一度ビューイングにだけでも行ってみてくださいね!