皆さんは、「自分の強み」「自分らしさ」「自分の価値」「自分のブランド」とは何かについて、明確な考えを持っているでしょうか?自分らしさというのは、アイデンティティ、つまり自分が誰であるかという、生き方や働き方の核ともなるものだと思います。
筆者はロンドンを拠点に世界を旅をする映像関係の仕事をしながら、それなりの収入を得てきました。フリーでやって来たのだから、自分の強みや自分らしさを象徴するUSP(ユニーク・セリング・ポイント)と呼べるものがあったのだろうと思うかもしれません、常に自分の中のどこかで「私のブランドとは何か?」ということの答えをなかなか出せずにいたように思います。
そんな筆者が、コロナ禍で自分らしい仕事についてのさまざまな記事を読み、自分の過去・現在・未来について時間をかけて考え、新たなキャリアを踏み出すことになりました。ソーシャルメディアの時代だけあって、巷にはさまざまな情報が溢れかえっていますが、正直、自分らしく自分の強みを生かす仕事をストレートに診断できる方法論はほとんどなかったように思います。
この記事では、本当の自分らしさや自分の強みを見つけ、自分の輝ける場所を特定し、自分をブランディングする方法について、私自身が苦戦しながら考え、新たな一歩を踏み出すまでに至った、具体的な道筋と自分らしさを診断する方法を皆さんと共有したいと思います!
自分の強みを診断する方法
ジェネラリストからスペシャリストへ
一般的に言って、日本の教育はジェネラリストを育てるようにできている気がします。国立大学に入るためには、センター試験でも5科目以上を受験しなければいけないことになっていますね。私は昔京大受験のために、8科目受験しました。イギリスのAレベルと呼ばれる高校卒業資格試験では、3科目程度で好成績を目指すのが一般的で、8科目も受験する人はほとんどいません。
正直なところ、ジェネラリストを育てる日本の教育は、私にはそれなりに合っていました。子供の頃から特に苦手な科目もなければ、ずば抜けて得意な科目もないという私も、そんな風潮によって一流大学に入ることができたわけです。
就職してからも、メディア業界での仕事はジェネラリストである私に向いていました。科学、スポーツ、料理、音楽、どんなテーマを与えられても、ちょっとリサーチをすれば、取材に十分なだけの知識を即座に得て対応することができたからです。
でも、イギリスのメディア業界でのキャリアアップを目指したとき、ジェネラリストであることの現実を突きつけられました。世界的に人気番組トップギアのプレゼンターの一人も所属しているタレントエージェンシーとの契約を取り付けたときのこと。ベテランエージェントが、半年ほど売り込みに奔走した後、私にこう言ったのです。
「あなたのキャリアを面白いと思ったけれど、今のあなたはイギリスに住んでいる単なる日本人の一人に過ぎないわ。」
この言葉は、何か自分のブランドだと言える「専門」を持たなければいけないことを示唆していました。
自分とは誰かを問いかける
自分を見つける方法などについて書かれた記事を参照しながら、私は私自身に自分が誰であるのかを問いかけてみました。自分が誰であるか、という質問に直接答えるのはなかなか難しいので、少し噛み砕いて、次の4つの質問を自分自身に問いかけてみてください。
- あなたがやっていて楽しいと思うことは何ですか?
- あなたの心を満たしてくれるものは何ですか?
- あなたは何が得意ですか?
- あなたが理由もなくこだわってしまうものはなんですか?
気取らずに、できるだけ自分に素直に答えることがスタートになります。どんなものでも構わないので、思いついたものを全て紙に書き出してみてください。たいそうなものじゃなくてもいいのです。形のないものでももちろん良いのです。自分の中に何故か響く事柄、言葉、モノを並べてみましょう。
好きなこと、こだわりのあるものを書き出す
私のノートには以下のようなものが並びました。
- 旅
- 学ぶこと
- コミュニケーション
- 科学
- ジャーナリズム
- 映像制作
- ミニマリズム
- 簡潔化
- 日本人であること
本当に思いつくままに書き出したものです。大学で勉強したことから、仕事でやっていること、自分の生活スタイル、そして自分の起源。現在、過去、未来、そして人生のさまざまなアングルから自分を見つめてみてください。
好きなこと、こだわりのあるものを組み合わせる
それができたら、今度はランダムに書き出した言葉を組み合わせて、新しいアイディアを発展させていきます。例えば、「旅」+「学ぶこと」+「コミュニケーション」を足し合わせて「言語コーチ」という新しいキャリアを考えることができますね。
あるいは、「科学」+「ジャーナリズム」+「映像制作」を足し合わせて「科学プロデューサー」というのも考えられます。「ミニマリズム」+「簡潔化」+「日本人であること」を足し合わせて、コンマリさん足跡をたどるというのもありかもしれません(笑)。
できるだけ、自分の好きなもの、こだわりのあるものの中から3つ以上のものを組み合わせて、何か素敵なアイディアにならないか、試行錯誤してみてください。この時点ではしっくり来なくても良いので、できるだけたくさんの組み合わせから、たくさんのアイディアを出してみると良いでしょう。
複数のものを組み合わせるという方法は、自分らしさから、自分の「専門」や「ブランド」を考える上でとても便利なやり方と言えます。何故なら、このやり方で自分の好きなものを3つ以上網羅した新しいキャリアを考えることができ、さらに競争相手を減らすことができるからです。
世界一の科学者になることや、世界一の映画監督になることに比べれば、世界一の科学ドキュメンタリープロデューサーになる方が、競争相手が少ないと思いませんか?自分の強みを生かして、自分にしかできないブランドで勝負する方が断然競争力が増すのです。
自分らしさの条件のふるいにかける
好きなものの組み合わせから作った新しいアイディアを、あなたらしい、あなただけのブランドにするためには、篩にかけてもう少し厳選する必要があります。では一体どんな篩にかければ良いのでしょうか?
私が考える自分らしさ、自分のブランドとなるための条件は以下の4つです。
- 少なくとも平均以上の専門知識を持ち合わせているか?
- 他の人と差異化を測れるだけの独自性があるか?
- お金を稼ぐための市場性があるか?
- 社会に影響を与えることのできるものであるか?
まず専門知識についてですが、あなたが10代であるなら、これはそれほど気にしなくて良いと思います。これから専門知識を増やすだけの時間と機会がまだまだあるからです。でも30歳以上であるなら、これまでに築いてきた学歴や職業経験を利用しない手はないと思います。突然完全な方向転換をして新しいことを学び直すよりは、なんらかの基盤のあるところから軌道修正する、あるいはスキルUPする方が断然効率が良いからです。
独自性は、戦術の競争力の話にもつながっています。独自性のあるブランディングは、思い入れを強く持つことができると同時に、ニッチな分競争相手を少なくすることができるのです。
市場性は、ブランディングの目的に通じています。せっかく好きなものを自分のブランドにするわけですから、それをやりながらお金を稼げるに越したことはないでしょう。よって、何かを売ることができたり、投資をしてもらえたりするようなものを選びたいですね。
そして最後の社会的影響は、自分のモチベーション維持にもつながりますし、そのことに取り組む意義が明確になり、自分の周りにコミュニティとの繋がりによって良い循環がもたらされることも多いので、ぜひ考慮しておきたい基準です。
あなたらしさとはこれだ!
これだ!と思えるか
上記のプロセスを何度も繰り返し、私がやっと辿り着いた私の新しいブランディングはこれです。
「教育テクノロジー」
いわゆる「エドテク(EdTech)」と呼ばれる分野です。私はこれまで教育テクノロジーの分野での経験は全くありませんが、上記のブランディングの篩にかけることで、自分の新しいブランドとなることを確信しました。
まず専門性においては、科学テクノロジー研究の修士号を持っていましたし、最新メディアを使ってのコンテンツの視覚化についてもテレビ業界での経験を通してある程度把握しているつもりでいました。もちろん十分な専門性は持ち合わせていませんでしたが、更なる知識を発展させる基盤となるものは持ち合わせていると思ったのです。
独自性については、科学教育のテクノロジーということで、更なる差異化をはかりました。言語分野の教育テクノロジーなどに比べると、科学分野の教育テクノロジーはニッチであると言えます。
市場性については言うまでもなく、フィンテク(金融テクノロジー)やメドテク(医療テクノロジー)分野と並んで、世界的に急成長している産業分野です。
さらに、コロナ禍でオンラインやリモートの教育ツールへの要請が強まったことも社会的背景にありました。パンデミック下に限らず、世界中のさまざまな状況に置かれる人々を支援する可能性をエドテクは秘めています。
多くの好きなことを網羅しているか
ちょっと高尚ぶったことを書きましたが、最初に書き出した私の好きなもの、こだわりのあるもののリストに戻ってみると、なぜ教育テクノロジーが私のブランディングに適しているのかご理解いただけると思います。
科学教育テクノロジーでは、科学知識の視覚化も重要なテーマの一つであるため、映像を製作したり、コンテンツを書いてコミュニケーションを図ることが重要な作業の一つになります。
さらに思考の簡略化によって教育効率をあげようという努力でもあるため、私の好きな思考方式を元に取り組むことができます。また、アニメ大国でもあり、テクノロジー大国でもある日本のアイデンティティを新しいブランディングに持ち込むこともできます。
私が新しい自分らしさ、自分のブランド、そして新しい専門として選んだこの分野は、私好きなもののほとんどを網羅しているものだったのです!「旅」の要素だけが欠けているように思ったのですが、実は学会などで旅をするチャンスもあるので、全てを網羅したものと言っても過言ではないかもしれません。
まとめ
私はこうやって見つけた自分らしさから、この新しいブランディングを遂行すべく、現在教育テクノロジー分野の博士課程に取り組んでいます。自分が誰かわからない、自分の専門が何かわからない、自分らしさがわからない、自分のブランドと呼べるものを持ちたいと思っている人は、ぜひこの記事でご紹介したプロセスを使って、自分探しをしてみてください。
そこから見えてくるあなたの姿は、私が見つけたものとは全く異なるものかもしれませんが、自分が誰かという問いに素直に向き合うことは、必ずあなたの人生の意義をより深いものにしてくれるものだと思います。
まずは好きなもの、こだわりのあるものを書き出すところから、ぜひ初めてみてくださいね!