パラダイムシフト(Paradigm Shift)という言葉をご存知でしょうか?モチベーションを表明するときに「パラダイムシフトを起こしたい!」と言うように、現在は革命的な行動全般を意図する言葉として使われるようになっていますね。
でも、元々はアメリカ人哲学者トーマス・クーン(Thomas Kuhn)が、1962年に出版された『科学革命の構造(The Structure of Scientific Revolutions)』という有名な本の中で、科学について説明する文脈で使った言葉です。この記事では、パラダイムシフトとは何か、わかりやすく説明してみたいと思います。
パラダイムシフトとは何か?
この記事の冒頭の手書きのイラストを見て、みなさんはウサギが見えますか?それともカモが見えますか?ウサギが見えた人は、同じイラストをカモとして認識するために、少し視点を変えてみる必要があったのではないでしょうか?もちろん逆も同じです。
このような根本的な視点の転換が、いわゆる科学革命と呼ばれる科学の歴史における大きな変化の中でも起こっているとクーンは考え、それをパラダイムシフトと呼びました。
コペルニクス的転回
パラダイムシフトのおそらく最も有名な例が、コペルニクスの天動説から地動説への転換ではないでしょうか?科学の文脈だけでなく、ものの見方が180度変わってしまうことを一般的に「コペルニクス的転回」と言いますよね。それくらいこの転換は人類の歴史の中でも重要な事件だったと言えるでしょう。
空を移動する天体を観察するのは、ウサギとカモのイラストを見ているような状態です。太陽が地球の周りを回っていると言う観点から抜け出して、地球が太陽の周りを回っていると言う思考の転換をすると、他の天体の動きとの関係もより広く説明することができるようになります。
ニュートンとアインシュタインの重力
科学史の中には、たくさんのパラダイムシフトの例がありますが、有名なニュートンとアインシュタインの重力についての考え方の転換もその一つです。
この例においてニュートンは、アインシュタインに塗り替えられてしまう古い科学的枠組みの提唱者ですが、ニュートン自身もその前の時代の考え方に革命を起こした偉大なパラダイムシフターであったことを頭の片隅においておいてください。
ニュートンが体系化した物理学の枠組みでは、空間は平たく静的なものです。時間はその空間の中を一定のペースで流れ、2つの物体の間には重力と呼ばれる力が働きます。
一方、アインシュタインの一般相対性理論は、重力が時空の中に組み込まれています。よって、太陽の重みが柔らかい布のような時空を歪め、地球はその時空の歪みに沿って動くことになるわけです。
量子力学の基本的な考え方
重力を時空に組み込むという革命的な考え方を打ち出したアインシュタインですが、彼もまた、量子力学においてはイラストのウサギの像に囚われて、カモの像をなかなか見ることができなかったことがあります。
ニュートンは光が粒子であると考えていましたが、電磁波についての理論が確立されたアインシュタインの時代、光は波であるという考えが一般的でした。しかし、アインシュタインは光電効果の発見により、光が粒子のように振舞うことに気付きます。
ただ、ここで注意しなければいけないのは、量子力学に関するパラダイムシフトは、「光が波である」という認識から「光が粒子である」という認識に移行したということではない点です。
古典力学と呼ばれる従来の物理学の枠組みの中で、粒子と波の性質はお互いに相容れないものです。しかし、光やその他電子のような小さな物体は、実験において波と粒子両方の性質を示します。よって「粒子でもあり、波でもある」という見方ができることが、重要なパラダイムシフトなのです。
天才アインシュタインでも、私たちの直感的な認識に反するこの考え方をなかなか受け入れることができなかったようです。
まとめ
科学史上のパラダイムシフトに見られるような発想の転換は、私たちの日常を大きく変えるものだと思います。現代では、イノベーションと呼ばれるような発明やテクノロジーの発展が、社会を大きく動かしているのかもしれません。
でも、そんなに大そうなことでなくても、私たちが普段当たり前だと思っていることを、ちょっとだけ疑ってみることを提案したいと思います。当たり前だと思っていることは、いわばウサギの像です。そこにカモの像を見ることができないか、少しだけ考えてみて欲しいのです。
私は、京都大学で科学哲学を学び、シンプルにそして大胆に科学史を語るパラダイムシフトという考え方がとても気に入りました。今でも、文章を書いたり、意見を求められた時には、カモの像がないかどうか、視点の転換の可能性を探ってみることで人生を楽しんでいます。
そうすることで、全く違った世界が見えてくるかもしれません。アインシュタインのようなに、パラダイムシフト思考を取り入れてみてはいかがでしょうか?