海外に居住してフリーランスとして働くために必要な税金の基礎知識はありますか?この記事では、税金に関する重要な英単語、フリーランスとして確定申告をするための登録方法、所得税・国民保険料の納め方、租税条約による特別措置で二重課税を回避する方法をわかりやすく解説しています。
海外フリーランスの税金
海外でフリーランスとして働くに当たって、税金についての基本は絶対に知っておくべきです。税金を払うことは、その国に住んで労働をする者としての義務です。きちんと手続きをしておかないと法律違反になって罰金の対象となることもありますので、居住国の税金事情についてはしっかり調べるようにしましょう。
私は2013年よりロンドンを拠点にフリーランスとしてお仕事をしています。有資格の会計士を雇って確定申告をしていますが、究極のところの責任は本人ということになるため、フリーランスとして働くのであれば、最低限のことを知っておく必要があります。
特に付加価値税の扱いと租税条約に関する特別措置については、国境をまたいで取引をする人にとって重要なことなので、不明な点がある場合は自分の居住国のルールについて調べておくのが良いと思います。
税金に関する基本的な英単語
Tax Return
日本語でいう確定申告、納税申告に当たる言葉です。イギリスではHM Revenue and Customs(通称HMRC)という税務署にあたる機関が統括しています。確定申告にまつわる詳しい情報の一次情報は、すべてのこのHMRCサイトに載っていますので、不明な点、最新情報などは以下のリンクからチェックすることができます。
https://www.gov.uk/government/organisations/hm-revenue-customs
Turnover
ビジネスを通して受け取った総売り上げ額のことを指します。元手や運営コストなどを引く前の、手元に入ってきたすべての金額のことを言います。
Profit
総売り上げに対して、利益を示す言葉です。売り上げから仕入原価を差し引いた総利益はGross Profit、そこからさらに税金を差し引いた後に残った純利益はNet Profitと言います。
VAT
付加価値税のことです。日本でいう消費税と同様のものです。イギリスでは、必要不可欠な食べ物や子供服など一部のものを除いて20%の付加価値税がかかります。ただ、売り上げがある一定額に達するまでは、付加価値税をかけずに物を売ったり仕事を受けたりすることができます。
Self-employed
フリーランスは「freelance」という英語でももちろん通じますが、税務関係の書類では「Self-employed」という言葉の方がよく使われます。また「Solo Trader」という言葉もよく使われます。これは会社と個人事業者を区別する語です。ちなみに有限会社は「Limited Company」と言います。
会計年度に関する重要な日付
会計年度
国によって会計年度の始まりが異なるため、自分の居住国の会計年度を確認するようにしましょう。日本は4月1日始まりですが、イギリスの会計年度の始まりは4月6日で、翌年の4月7日まで続きます。
確定申告の締め切り
イギリスの確定申告の提出は紙ベースのものと、オンラインベースのものを選ぶことができます。紙ベースのものの締め切りは、会計年度が終わった年の7月末日ですが、オンラインで提出する場合は会計年度が終わった次の年の1月末日になります。
支払いの締め切り
オンラインの確定申告をする場合、前年度の収支に基づいた予想の納税額の半分を7月末日までに払う必要があります。確定申告の締め切りまでまだ半年あると思うと忘れがちですが、支払いが遅れると罰金を取られることもあるので注意が必要です。予想の額で納めるため、もし実際の納税額よりも多かったり少なかったりした場合は、最終的な確定申告の書類を提出した際に調整します。少なければ追加分を支払い、多ければ銀行口座に返金されます。
社会保険番号を取得する
社会保険番号を元に、納税と国民保険の支払いが記録されます。イギリスの社会保険番号は、National Insurance Number(通称NI)と呼ばれています。登録するとAA123456Cのようにアルファベットで始まりアルファベットで終わる9桁の番号が与えられます。ビザがあって、就労が許可されているのであれば取得することができます。この番号は確定申告に必要な他、自治体からの手当を受けたり、ISA口座を作ったりするのにも必要です。以下のリンクから登録してください。
https://www.gov.uk/apply-national-insurance-number
フリーランスとしての登録をする
ウェブサイトやアプリなどからの収入も含めて、フリーランスとし一定額以上の稼ぎがある人は、フリーランスとして登録しなければいけません。イギリスでは会計年度の間に1000ポンド以上の稼ぎがある人は登録しなければいけないことになっています。それ以外にもビザの申請や、家を借りるときなどに必要な書類として使うことができるので、規則に従って登録し納税し、関連書類をきちんと保管しておくことが大切です。以下のリンクから登録できます。
https://www.gov.uk/log-in-file-self-assessment-tax-return/register-if-youre-self-employed
Unique Taxpayer Reference (UTR)
フリーランスとして確定申告をするための登録をすると、Unique Taxpayer Reference (UTR) と呼ばれる数字10桁の番号が送られてきます。この番号は確定申告をして納税支払いをする際のリファレンス番号になっています。それ以外にも、GoogleやUdemyなどと取引をする際にも、居住国で納税するためのフリーランス登録がされているかを確認するために聞かれる番号でもあります。HMRCからの納税についてのレターなどに書かれているので確認してみてください。
Self-Assessment
フリーランスとして自分で確定申告を行うために、Self-Assessmentの登録をすることができます。以下のリンクから登録すると、Government Gatewayという政府のシステムへアクセスするためのログインIDとパスワードが送られてきます。これを使ってサイトにログインすると自分でSelf-Assessmentを行うことができます。また過去のデータもこのシステムで確認することができます。
https://www.gov.uk/personal-tax-account
Self-Assessmentのやり方
基本的にはSelf-Assessmentウェブサイトの手順に従って必要な数字を入力していけば自分でも確定申告をすることができます。私自身も額が小さいときは自分でやっていました。基本的にシステムが勝手に計算してくれるので、用語の意味さえわかればそれほど難しくはありません。会計年度内に受け取ったお金のすべての額を出し、会計年度内にそのビジネスを営むために使った経費を出して入力すればいいということになります。
Self-Assessmentで出した額に従って、所得税と国民保険を支払うことになります。ちなみに2020年度のイギリスの所得税は、1万2千5百ポンドまでが0%、5万ポンドまでが20%、15万ポンドまでが40%、それ以上が45%となっています。
付加価値税登録をする
イギリスでVAT登録が必要なのは、総売り上げ額が8万5千ポンドを超える場合です。これは会計年度に関わらず、ある12ヶ月間の間にこの額を超えるようであれば登録する必要があります。またビジネスの経費として物やサービスを購入した際に払ったVATの還元を受けるために自主的に登録することも可能です。以下のリンクから登録してください。
https://www.gov.uk/vat-registration
付加価値税については複雑な取り決めがあり、業務の行われた場所や発注元の会社などによって課税対象となるかどうかが変わります。一般に、居住国以外の国の会社に対してサービスを提供した場合の支払いについては、課税対象とならないことが多いです。また、EU内の他の国への請求の場合、相手の会社のVAT番号を使うことで、付加価値税を載せずに請求書のやりとりをすることができることもあります。
会計士
会計士の相場
正直会計士のお値段はピンキリです。1会計年度の確定申告の請負で1000ポンド以上というところも少なくありません。どこまでのサービスを会計事務所にお願いするかということでも値段は変わってきます。私は基本的に収入や経費レシートのエクセル入力は自力で行い、数字がまとまった書類を渡して最終的な確定申告の計算を会計士にお願いするという形を取っています。自分で間違った解釈をして、法律に関わるミスをしないようにするためです。
基本的なサービスで1年に410ポンド払っています。また、監査が入ったときに追加料金なしで会計士が対応してくれるというサービスがあるので、それに60ポンド払っています。私が使っている会計事務所はTax Assistというフランチャイズの会社です。節税対策などに優れているわけではありませんが、最低限のことは迅速に対応してくれるという印象です。
会計士を使うメリット
フリーランスだと、家を借りたり、ビザを取得したりする際に、身元を保証してくれるものがありません。雇用されているのであれば会社が保証してくれるのですが、HMRCへの提出書類だけでは足りない場合もあります。その際に使えるのが、会計事務所からのレターです。会計士に公式のレターをもらうことで、自分の収入を証明してもらうことができます。
租税条約に関する特別措置
海外に居住していて日本の会社と仕事をして報酬を受け取るような場合、居住国が日本と租税条約を結んでいれば、居住国と日本と両方で二重に課税されるという状況を避けることができます。日本の会社が海外に住むフリーランサーへの支払いの際に源泉徴収せずにすむようにするには、以下の3つの書類を日本の取引先の会社に提出する必要があります。
- 租税条約に関する届出書
- 特典条項に関する付表
- 居住国の居住証明書
すべて原本が必要ですが、これらの書類を送ることによって、日本にある会社は海外のフリーランサーに税金を差し引かずに報酬を支払うことができます。よってその報酬に対する所得税は、確定申告の際に居住国の税に関する法律に従って居住国のみに収めれば良いということになります。
国税庁の書類
「租税条約に関する届出書」と「特典条項に関する付表」の2つの書類は、日本の国税庁の以下のリンクからPDFダウンロードで入手することができます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2888.htm
居住証明書の入手方法
居住国の居住証明書については、イギリスの場合はHMRCから入手することができます。英語では「Certificate of UK Fiscal Residence」と呼ばれるものです。郵便で届くこともあって、申請から実際に入手できるまで少し時間がかかりますが、申請自体はフリーランスの経済活動の詳細を入力するだけなので簡単です。以下のリンクより申請してください。
https://www.gov.uk/guidance/get-a-certificate-of-residence#how-to-apply
いかがでしたでしょうか?まだ不明な点があるという人や登録サポートが必要という人は、お問い合わせページよりお気軽にご連絡ください。