Skip to content

かっこいい物理学の方程式

    物理の方程式は、私たちが生きる世界の万物の振る舞いの本質を記述するものです。イギリス生まれの物理学者ポール・ディラックが、

    「A physical law must possess mathematical beauty(物理法則には数学的美が備わっていなければならない)」

    と述べたように、物理の方程式は数学的に「美しい」もの、「かっこいい」ものでなければなりません。それでは、「かっこいい」物理の方程式には一体どのようなものがあるでしょうか?

    筆者はイギリスの大学院で科学史の理学修士号を取得し、現在教育テクノロジーの博士号取得を目指している者です。この記事では、科学に携わる人でなくても教養として知っておきたい「かっこいい物理の方程式」をご紹介したいと思います。

    かっこいい物理学の方程式

    「物理学はかっこいい、美しいものである」というイメージ、それは筆者自身も科学史を先行していた大学時代に持ち続けていた感覚です。京都大学文学部に籍を置きながら、一般教養では物理の授業をとり、結局はアインシュタインとボーアの科学哲学に魅せられて、ニュートンやマクスウェルの国であるイギリスに移住してしまいました。

    最先端の科学研究や理科教育においても、このかっこいい、美しいという感覚はとても重要なものです。認知科学の観点からも、人は美しいものに魅せられ、美しいものを探求する生き物だからです。

    数学的な美しさ、簡潔さを備えた物理学の方程式の中でも、歴史的に重要性や影響力が高いものの中から、ぜひ知っておきたいかっこいい物理学の方程式のリストを以下に挙げてみたいと思います。

    かっこいい力学の方程式

    ニュートンの運動の第二法則

    ニュートンの運動の第二法則は、物体の運動に関する基本的な法則の一つで、物体に力が加わったとき、その物体の加速度がどのように変化するかを記述しています。

    $$F = ma$$

    ここで、$F$は物体に加わる力、$m$は物体の質量、$a$は物体の加速度を表しています。

    この法則は、力が物体に与えられると、その物体の質量に比例して加速度が生じることを示しています。つまり、同じ力が働く場合、質量が大きい物体は小さな質量の物体よりもより小さな加速度を得ることになります。また、質量が一定の場合は、与えられた力が大きいほど、物体の加速度も大きくなります。

    この法則は、ニュートンの三つの運動の法則の中でも最も重要なもの見られていて、古典力学の基礎を築く一つの重要な要素として位置づけられています。シンプルな方程式ですが、物体の運動や力学的な振る舞いを理解し、予測するための基本的な原理の一つとして認識しておくべき方程式ですね。

    ニュートンの万有引力の法則

    ニュートンの万有引力の法則は、物体同士の間に働く引力を説明する法則です。この法則は重力の法則としても知られており、ニュートンが提唱した重要な物理学の法則で、その名前を知らない人はいないでしょう。

    $$F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}$$

    ここで、$F$は二つの物体の間に働く力、$m_1$と$m_2$」はそれぞれの物体の質量、$r$は物体間の距離、$G$は万有引力定数です。

    この法則によれば、二つの物体の間にはその質量と距離に依存する引力が働くということになります。質量が大きい2つの物体、あるいは近くに置かれた2つの物体ほど、その間に働く引力は強くなります。また、物体間の距離が2倍になれば引力は4倍になり、距離が3倍になれば引力は9倍になるといったように、距離の2乗に反比例する関係が成り立ちます。

    この法則は、天体の運動や重力に関する物理学的な現象を説明する際に非常に有用で、古典力学の基本的な法則の一つとして広く知られているものです。

    かっこいい熱力学の方程式

    熱力学の第二法則

    熱力学の第二法則は、自然界における熱の流れやエネルギーの動きに関する法則です。エネルギーの流れや熱の振る舞いに関する基本的な法則であり、熱力学の中でも特に重要なものです。

    いくつかの表現や定式化がありますが、身近でわかりやすい表現としては、「エネルギーの自発的な移動は常に高温から低温へと起こる」というものです。つまり、熱は自発的に低温から高温へ移動することはなく、熱勾配が存在する場合は、熱が高い方から低い方へと移動する傾向があるということです。これはクラウジウスの表現と呼ばれる以下の方程式で表されます。

    $$\oint \frac{\delta Q}{T} \leq 0$$

    ここで、$δQ$は微小な熱量、$T$は絶対温度です。この系と熱浴との間での熱のやり取りに関する不等式は、熱源となる系が他の系に熱を移動する際、その熱を完全に仕事に変換することができないことも示唆してしています。

    また別の表現では、「エントロピーは常に増加する」というものもあります。エントロピーは系の乱雑さや無秩序さを表す物理量で、熱力学の第二法則はこれが時間と共に増加する傾向があることを述べています。つまり、自然現象においてエネルギーの変換がより「無秩序な状態」に向かう傾向があることを示しています。ギブズのエントロピー増大原理と呼ばれるこの法則は、以下の方程式で表されます。

    $$\Delta S \geq 0$$

    ここで、$\Delta S$は系のエントロピーの変化を表し、第二法則は系全体のエントロピーが常に増加するか、等しく保たれるかであるということを示しています。

    これらの表現は、熱エンジンの効率性や自然現象におけるエネルギーの変換に関する制約を示す重要な法則であると同時に、宇宙の創生からの自然の過程の方向性を規定するものであるという観点からも重要な方程式と言えます。

    かっこいい電磁気学の方程式

    マクスウェル方程式

    マクスウェルの方程式は、電磁気学、つまり電気や磁気についての基本的な法則を記述する4つの方程式です。1つの方程式ではないのでご注意ください。マクスウェル方程式は、電場と磁場の相互作用や電磁波の伝播など、電磁気学のさまざまな側面を説明しています。

    マクスウェル方程式は、以下の4つの方程式になります。

    ガウスの法則(電場)

    $$\nabla \cdot \mathbf{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}$$

    ここで、$\mathbf{E}$は電場、$\rho$は電荷密度、$\varepsilon_0$は真空の誘電率です。この法則は電場の発生源である電荷による電場の分布を記述しています。

    ガウスの法則(磁場)

    $$\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$$

    ここで、$\mathbf{B}$は磁場です。この法則は、磁場による磁荷の存在を否定し、磁場の発生源は電流や変化する電場による電流であることを示しています。

    ファラデーの電磁誘導の法則

    $$\nabla \times \mathbf{E} = -\frac{\partial \mathbf{B}}{\partial t}$$

    上記と同様に、$\mathbf{E}$は電場、$\mathbf{B}$は磁場、$t$は時間で、電場の変化によって磁場が生じることを記述しています。

    アンペール-マクスウェルの法則

    $$\nabla \times \mathbf{B} = \mu_0 \mathbf{J} + \mu_0 \varepsilon_0 \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}$$

    上記と同様に、$\mathbf{E}$は電場、$\mathbf{B}$は磁場、$\mathbf{J}$は電流密度、$\varepsilon_0$は真空の誘電率、$\mu_0$は真空の透磁率です。$\frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}$は時間に関する電場の変化率を示しています。

    この法則は、電流が流れるとそれに関連する磁場が生じるだけでなく、電場の時間変化によっても磁場が誘導されることを示しています。つまり、電場の変化率が磁場の発生に影響を与えるということです。

    マクスウェルの方程式として知られる4つの方程式は、電磁気学の基本的な原理を記述し、電場と磁場の相互作用を説明するために広く使用され、また、これらの方程式によって電磁波がどのように伝播するかについても理解されています。

    かっこいい流体力学の方程式

    ナビエ・ストークス方程式

    ナビエストークス方程式は、流体力学における基本的な方程式の一つです。ちなみに流体力学は、液体や気体、つまり水や空気のようなものを記述する分野ですね。

    $$\rho \left(\frac{\partial \mathbf{v}}{\partial t} + \mathbf{v} \cdot \nabla \mathbf{v}\right) = -\nabla p + \mu \nabla^2 \mathbf{v} + \rho \mathbf{g}$$

    ここで、$\rho$は流体の密度、$\mathbf{v}$は流体の速度ベクトル場、$t$は時間、$p$は圧力、$\mu$は動粘性係数(流体の粘性を表す係数)、$\nabla$は勾配演算子、$\nabla^2$はラプラシアン演算子、$\mathbf{g}$は重力ベクトル場です。

    この方程式は、連続の方程式(流体力学における質量保存則)と運動方程式(ニュートンの法則に基づく運動方程式)から導かれます。流体の速度場がどのように時間と空間で変化するかを示し、この方程式を使って、粘性のある流体における運動を予測することができます。

    ただ、この方程式は非常に複雑で解析的に解くことが難しいため、数値的な手法が使われたり近似解析が行われたりします。

    かっこいい波動論の方程式

    波動方程式

    波動方程式は、波が空間や物質を伝播する際に、どのような振る舞いをするかを記述する方程式です。例えば、音波が空気中を伝わる様子や、弦の振動、光が空間を伝播する際の波動の振る舞いなどを表現するのに使用されます。

    $$\frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2 \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}$$

    ここで、$u$は波の振幅、$t$は時間、$x$は位座標、$c$は波の速度です。

    この方程式は、波動が空間内を伝わる際、時間と空間の二階微分が関係することを示しています。より具体的には、左辺の時間の二階微分と右辺の空間の二階微分が同じ比例関係にあることを示しています。

    波動方程式についてのわかりやすい説明は、別の記事に書いていますので、そちらも合わせてご参照ください。

    かっこいい相対論の方程式

    アインシュタインの質量エネルギーの等価性

    この式はエネルギーと質量の等価性を示し、物質とエネルギーの関係を理解する上で基礎的なものです。アインシュタインによって導かれたこの式は、世界で最も有名な物理学の方程式と言えるでしょう。

    スティーブン・ホーキングが著書「ホーキング、宇宙を語る(原題:A Brief History of Time)」の中で、編集者に数式を入れれば入れるほど本の売り上げが下がると警告を受けながら、どうしても入れなければならなかったという数式がこの方程式でもあります。

    $$E = mc^2$$

    ここで、「E」はエネルギー、「m」は質量、「c」は光速を表します。この式は、物体の質量とそのエネルギーの間には直接的な関係があり、質量がエネルギーに変換可能であることを示しています。

    物体の質量がエネルギーとして放出される場合(原子核反応など)、またはエネルギーが質量として蓄積される場合(高速で移動する物体の運動エネルギーなど)、質量とエネルギーが相互に変換可能なものであることを示しています。

    アインシュタインの場の方程式

    アインシュタインの場の方程式は、重力の振る舞いを記述する方程式で、物質とエネルギーによって作られた時空の曲率を表し、重力場を記述します。

    $$G_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}$$

    ここで、$Gμν$は宇宙の幾何学的特性を表すリーマン曲率テンソル、$gμν$は時空の計量(メトリック)、$ΛΛ$は宇宙定数、$Tμν$はエネルギー・運動量テンソル、$G$は万有引力定数、$c$は光速です。

    この方程式は、質量やエネルギーが時空そのものを湾曲させ、湾曲した時空が物体の運動に影響を与えることを説明しています。つまり、質量やエネルギーが存在すると、時空自体が湾曲し、物体はそれに従って運動するということです。この湾曲した時空の構造が、私たちが感じる「重力」というわけですね。

    この方程式は、宇宙全体の構造や物体の運動に関する重要な法則を表すもので、宇宙の大規模構造やブラックホールなどの物理現象を理解するための基盤となっています。

    かっこいい量子力学の方程式

    プランクの光量子関係

    一般的に「光量子関係」として知られる自然法則は、光を粒子のような量子として捉える重要な枠組みを担っています。より具体的には、光のエネルギーとその波長(または周波数)の間の関係を示す式です。

    $$E = h\nu$$

    ここで、$E$は光子のエネルギー$h$はプランク定数、$\nu$は光の周波数です。

    直接的には、光子のエネルギーがその講師の周波数に比例する、つまり周波数が高いほどエネルギーが高いことを示していますが、それ以上にこの関係式は、光の波動性と粒子性を結びつけ、光が電磁波として振る舞う一方で、エネルギーが離散的な量子(光子)としても存在することを示しています。

    シンプルな方程式でありながら、この法則はエネルギーの量子化という概念を導入し、光の理解を革新して量子論へと導きました。以下の記事にも関連の解説がありますので、合わせてご参照ください。

    シュレディンガー方程式

    シュレディンガー方程式は、量子力学における基本的な方程式の一つで、量子系の粒子が時間と空間においてどのように振る舞うかを記述するものです。

    波動関数を使って系の時間発展を記述する方程式です。一般的な時間に依存しないポテンシャルの1次元の自由粒子のシュレーディンガー方程式は以下のように表されます。

    $$i\hbar\frac{\partial \psi}{\partial t} = -\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\partial^2 \psi}{\partial x^2} + V(x)\psi$$

    ここで、$\psi$は系の波動関数、$i$は虚数単位、$\hbar$は換算プランク定数$\frac{h}{2\pi}$、$t$は時間、$x$は位置、$m$は粒子の質量です。波動関数 $\psi$ は系全体の状態を表し、方程式は時間に対する波動関数の時間発展を予測します。

    以下の表現もよく使われますが、こちらの数式はハミルトニアンなどの背景知識がないとわかりにくいかもしれません。

    $$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\Psi = \hat{H}\Psi$$

    シュレディンガー方程式のわかりやすい解説は、別の記事に書いていますので合わせてご参照ください。

    ハイゼンベルクの不確定性原理

    ハイゼンベルクの不確定性原理は、量子力学において重要な原理で、量子の位置と運動量を同時に測定することの限界を示すものです。

    $$\Delta x \cdot \Delta p \geq \frac{\hbar}{2}$$

    ここで、$\Delta x$ は位置の不確定性(測定の不確かさ)、$\Delta p$は運動量の不確定性、$\hbar$は換算プランク定数$\frac{h}{2\pi}$です。

    この原理は、一つの物理量(例えば位置)を非常に精密に測定するほど、それに関連する共役的な物理量(例えば運動量)を測定する際の不確定性(不確かさ)が大きくなることを示しています。つまり、位置と運動量の両方を同時に完全に正確に測定することは不可能であるということです。

    この原理は、量子のような小さな世界では起こるものの、古典力学の世界では経験されないもので、物理量の測定における量子の特性を示しています。量子力学では、このような不確かさが物理的な制限となり、私たちが量子の振る舞いのような物理的な現象を直感的に捉えるのを難しくしているのです。

    ディラックの方程式

    ディラックの方程式は、相対論的な効果を取り入れた量子力学の基本的な方程式の一つです。電子のスピンを取り入れた相対論的な波動方程式で、その解は電子の波動関数を記述します。特殊相対性理論におけるエネルギーと運動量の関係$E = \sqrt{(pc)^2 + (mc^2)^2}$を満たし、同時に電子のスピンを記述することができます。

    $$(i\gamma^\mu\partial_\mu – m)\psi = 0$$

    ここで、$\psi$は4成分のディラックスピノール(スピノールと呼ばれる特殊な行列やベクトルで表される量子力学的な粒子の状態)、$i$は虚数単位、$\gamma^\mu$は4つのガンマ行列、$\partial_\mu$は4次元の勾配、$m$は粒子の静止質量です。

    通常のシュレディンガー方程式は相対論的な効果を無視しているため、高速で動く粒子に対しては精度が不足してしまいます。ディラックの方程式は、電子がスピンを持ち、また反粒子(陽電子など)が存在することを予測し、その後の高エネルギー物理学や量子場の理論の基盤となりました。

    ディラックの方程式は、量子力学と特殊相対性理論を組み合わせて記述される相対論的な粒子の性質を理解するための基本的な方程式です。この方程式は粒子の運動や相互作用を記述し、量子力学と特殊相対性理論の枠組みを統合する重要な役割を果たしています。

    まとめ

    いかがでしたでしょうか?美しく、簡潔で、科学史上重要な意味を持つ方程式の数々を見てきましたが、「かっこいい」物理方程式は見つかったでしょうか?

    $$E = mc^2$$はあまりにもよく知られた方程式ですから、Tシャツなどにするならシュレディンガー方程式かハイゼンベルクの不確定性原理あたりが良いかなと筆者は個人的に思っています(笑)。