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通訳を使う前に知っておきたいこと

    海外での仕事をする際に、通訳が欠かせない時がありますよね。私自身、英語は話せるものの、他の言語が必要な国に行ったときには、その国の通訳さんのお力を借りながら仕事をしてきました。

    バイリンガル環境で仕事をする者として、さらに英語以外の言語の通訳者を自分自身も使いながら世界中で仕事をしてきた者として、この記事では通訳者の手配をお考えの方が知っていたら便利だと思うことについてまとめてみたいと思います。

    通訳者手配で知っておきたいこと

    バイリンガル=通訳ではない

    まず最初に、多くの日本人が気づいていないある事実について知っていただきたいと思います。それは「英語と日本語が話せる=通訳ができる」ではないということです。帰国子女や海外で育ったバイリンガルの人でも通訳が得意でないという人がいるのはそのためです。

    通訳は専門のトレーニングを受けたり勉強をしたりした人ができる特殊技能です。通訳と簡単に言っても、プロの人たちがやっている通訳には幾つかのプロセスが含まれています。詳しくはこの後説明しますが、今から通訳を使おうとしているのであればビジネスの目的に合わせて、ただ単に2ヶ国語が話せる人を手配するのか、それとも特別な訓練を受けてきたプロの通訳者を手配するのかをまず考える必要があります。

    というのも、通訳のお値段はその人の通訳者としての技術に比例してかなり差があります。その国に留学している学生さんくらいの通訳でいいのか、それともテレビの会見を同時通訳できるような通訳が必要なのかを、はっきりさせると効率の良い通訳の手配ができるはずです。

    通訳のプロセス

    通訳のプロセスについて少しお話ししておきましょう。日本語から英語に訳すためには、日本語を聞いて、理解し、内容を覚えて、英語に翻訳し、それを発話する、という5つのプロセスを通っています。聞いた内容を訳出するまで覚えていることを「リテンション」と言いますが、リテンションが可能になるためには、まず最初の日本語の内容が理解できる内容であること、それから覚えれられるだけの長さであること、そうでなければメモを取れる環境にあることが必要です。

    もし1ヶ国語しかできないのでこの感覚がよくわからないということであれば、誰かが話した日本語を、そのまま発話の全ての要素を落とさずにリピートすることができるかと考えてみてください。まず元の日本語が長ければ、メモを取らない全てを限り覚えていることができません。さらに、自分の知らない専門用語が大量に含まれていて意味があまりわからなかった場合、メモを取れたとしても元の日本語の意味を失うことなく繰り返すことは難しいでしょう。

    文脈がなければ通訳はできない

    私はプロの通訳ではないのですが、コンサルタントの仕事の一貫として通訳をすることもあります。時々困ってしまうのは、前後の文脈なくいきなり発した日本語を訳してくださいと言われるときです。私は日本語のネイティブスピーカーですが、文脈なしに突然入れられた会話での日本語の正確な意味がわかるわけではありません。特に日本語は曖昧な言語で主語もないですから、文脈がないと誰がそれをしたのかわからず基本的な英文を構成することもできないのです。ですからまず通訳を使う場合、特に話の文脈や背景知識をきちんと説明するようにしましょう。また専門的な分野の話をするのであれば、その分野の知識に長けた通訳さんを雇うか、あるいは事前に資料などを渡して予習してもらうようにしましょう。

    通訳者は会話の全てを覚えているわけではない

    もう一つあるのは1時間など長時間に渡る発話内容を、あとから全部訳してほしいと言われる場合です。会議などであればその都度訳出していきますが、通訳は訳すことに徹したメモを取り、頭はフル回転で訳出することに労力を割いていますので、訳出したことはどんどん忘れていってしまいます。後から通訳さんに訳したことをもう一度全部繰り返してくださいというのは酷ですのでやめてください。誰かが日本語で話したのを1時間聞いて、その後にその人が言った内容をそのまま日本語で繰り返すというのが大変な作業であることはお判りいただけると思います。

    もし1時間分の内容をきちんと知りたいのであれば、録音していただくのが一番だと思います。それを英語なり日本語なり書き起こしに出していただけば、正確で詳細な会議内容をお手元に残していただくことができます。

    効率の良い通訳の使い方

    「通訳」と「要約」を使い分ける

    それから、「Translation(翻訳)」と「Interpretation(解釈)」いう2つの言葉があります。これらは少しニュアンスが違いますね。前者は翻訳するということなので、元の文に忠実に別の言語に置き換えていくという作業であるのに対し、後者は解釈するということなので元の文の要旨を伝えるという作業になります。後者の方は、バイリンガルの人なら大抵できると思いますが、前者の方はもっと緻密な作業になります。通訳のレベルが高ければ高いほど、元の発話の細かい部分が訳に反映されることになります。

    逆に「Interpretation」が便利なのは、時間に制限があるようなときです。これは録音と平行して使っていただくのがいいと思います。通訳を介して話をすると、基本的に時間が2倍かかります。そういうときに、発話の細かいこと全てを訳すのではなく、要旨だけを伝えるという手法です。視察や聞き取り調査など、相手の言葉をその場で全て理解していなくてもいい場合におすすめしています。

    また、これは特に英語圏の人に多いのですが、通訳が入る会話に慣れておらず、通訳が話している間をじれったく思ったり、まだ訳している間に次の話を初めてしまったりすることがあります。そういう場合には、相手のリズムにも合わせながら、ある程度要約で対応するほうが効果的かと思います。

    同時通訳

    通訳の種類についても少し知っておくと便利です。まず有名なのは「同時通訳」です。これはかなり特殊な技能で、訓練を受けてきた人だけが持っているスキルと言えます。誰かが話しているのに重なるように、ほんの少しの遅れて訳していきます。ただこれをするためには、それにブースなど適した環境も必要です。訳す対象の声と自分の声が同時に発せられるため、自分の声に訳す対象のの声がかき消されて消えてしまうと不可能になるからです。また、相当な脳のエネルギーを消費する作業であるため、10〜15分程度で人を交代させながらやる必要があります。

    プロの通訳と名乗っている人の中でも、高いレベルの通訳能力を必要とされる同時通訳はあまりうまくない人もいます。実際、大きな国際的なスポーツイベントで雇われていた同時通訳者の記者会見の通訳があまりに拙くて、後からすべて訳出させられたという経験もあります。

    逐次通訳とコーディネーター

    「同時通訳」の他に通訳の形として「逐次通訳」があります。これは訳す対象の話し手が話終わった後に、通訳者が訳出します。よって特別な装置は必要ありませんが、文脈や記憶力の限界といったような上記に書いた点には注意していただく必要があります。

    もう一つあまり知られていないのが「コーディネーター」です。これは、通訳も兼ねていますが、対応業務の範囲がより広く、現地でのロジ手配なども担当します。空港お迎えやホテル手配、それからビジネスをする相手との話が円滑に進むようにコミュニケーション全体に関するサポートをします。

    もっとも適切な通訳の形

    私は「同時通訳」は仕事でお金をもらうレベルではできないと言っています。それは単なるバイリンガルとは異なるスキルだと強く意識しているからです。ただ他の形の通訳のお仕事をお受けすることはあります。「逐次通訳」として契約しているときは、クライアントさんの言葉に忠実に訳すことを心がけています。その一方で「コーディネーター」として契約しているときは、ビジネスがもっとも円滑に進むコミュニケーションを優先しています。

    これはどういうことかというと、あるクライアントさんが日本語で言った言葉が、私にとっては意味を成しても、欧米人には理解されないであろう内容を含んでいた場合(例えば体裁とか、礼儀として、とかそういうものです)、相手にもわかるように日本文化の説明を加えて訳す、あるいはクライアントさんにこういう言い方ではどうでしょうかという助言をする、また、自分も会話に加わって訳の間に2文化間の不理解を補う情報の質問を入れるなどといった作業を入れているということです。

    日本というのは欧米から見ると非常に異なる文化や風習を持った国です。英語圏に限らず、他の国で通訳を介して話をする場合にも、うまく通訳を使う方法を知っているとみなさんもより効果的にグローバルなビジネスコミュニケーションを可能にしていただけると思います。