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30代子持ち社会人からでも海外の博士号を取得できるか

    30代子持ちで海外の博士号

    昨年、37歳でPhD(博士号)取得を目指すことを決意した理由についての記事を書きました。もちろん社会人として20代から築いてきた快適な稼ぎ口を離れての挑戦ですから、決意を固めたこと自体が自分自身にとって大きな出来事でした。

    でも何よりみなさんが知りたいのは、「本当にできるのか?」「どうやってやるのか?」ということではないでしょうか?

    奨学金をいただいているとはいえ、それなりに築いていたキャリア30代後半の稼ぎからは程遠い額で生活していかなければいけません。さらにこの挑戦を始めた当初、私は妊娠9ヶ月でした。博士号(PhD)取得の挑戦をリアルに検討されていた方は、挑戦の理由よりその後どうなったかの方がむしろ気になったかもしれません。

    あれから1年と少しが経過し、実際どうなったかというと、なんとかやっています(笑)。まずは博士課程の第一段階であるアップグレードを成功させ、MPhil(研究修士号)を取得することができました!

    でももちろん決して容易な道のりだったとは言いません(苦笑)。この記事では、アラフォーの博士課程の学生ママのリアリティについて、お話ししていきたいと思います。

    博士課程を始める前に知りたかったこと

    ものごとは実際やってみるまでわからない部分が少なからずあるものです。30代後半、子供がいるという状況で本当にイギリスのPhDに挑戦できるのかを考える上で、いくつか知りたかったことがありました。研究テーマによってかなり違うためか、検索してもなかなかいい情報に出会えなかったので、私の経験を一例としてお話ししたいと思います。

    仕事、育児、学業を鼎立させられるか

    まず答えから言うと、できます。もちろんフルタイムの仕事を続けながら、フルタイムで博士課程をやるのは無理だと思いますが、学部や修士の学生がアルバイトをするように、空き時間を見つけながらお金を稼ぐことは不可能ではありません。

    私の場合、これまでもフリーで仕事をしてきたので、受ける仕事の数を減らしてなんとか両立させています。拘束日程や時間がはっきりしているものに限定して、忙しくなりそうな月には仕事を取らないなど、自分の中での優先順位を明確にするのがポイントだという結論に達しました。

    どれくらいキャンパスに通う必要があるか

    イギリスの大学の博士課程に在籍して1年ほど経ちますが、私が実際にキャンパスにいったのは3回だけです(笑)。これはコロナの影響が大きく、さまざまな制限が早くに解除されたイギリスでも、授業は今(2022年現在)でもハイブリッド式で行われています。

    ただ、研究者コミュニティに居場所を持つこともPhDの成果の一つということなので、自分の研究に直接関係する重要な集まりを優先して頑張って顔を出すようにしました。また、私の研究テーマの欧州学会主催の夏合宿に家族を連れて参加したのは、パートナーの有給に合わせることができたため非常に良かったです。

    どれくらい必修科目があるか

    大学にもよるのかもしれませんが、私の所属する大学では必修科目というのはありません。VITAEと呼ばれる研究者養成フレームワークに沿って、自主性に任せられて取り組むという形になっています。

    大学内でも大学院、学部、研究所3つの部局がそれぞれに提供する研究方法論などを含む多岐にわたる授業が行われていて、自分が必要とする授業を選択して受講し、大学内部システムの中に記録していきます。私が実際に出ているのは週に3コマ程度といったところです。

    フルタイムの学生はどれくらいの時間勉強するのか

    PhDもフルタイムとパートタイムを選んで入学することができるわけですが、フルタイムというと1日8時間、週5日間勉強することが求められています。でも、学部時代どれくらいの人が週に40時間も勉強したでしょうか?(私はしませんでした・・・笑)

    博士課程を始めてから趣味がなくなったという人もいますから、真面目に40時間、あるいはそれ以上に取り組んでいる人もいると思います。でも私は乳児を抱えて、実際それほどの時間を確保することはできません。私の場合週25時間くらいが現実的に学業に費やしている時間です。

    時間の有効利用の仕方

    保育園なしには無理

    本音を言います。保育園なしにPhDをやるのは無理だと思います。

    出産当初は産休の6ヶ月が終わる頃までには、フルタイムで育児をしながら25時間くらいなら研究に充てることができるだろうと思っていました。工夫に工夫を重ねながらも、6ヶ月はあっという間に経ち、わかったのは育児は片手間にできるようなものではないということでした。

    私の中での優先順位は最初から1)子供、2)博士課程、3)仕事、とはっきりしています。それでも複数のプロジェクトをジャグリングしてきたキャリアがあれば全部回せるという過信がありました。でもこの3つを並行しようとして何よりも辛いのは、育児も学業もどちらも妥協しているという罪悪感に苛まれることです。

    そこで6ヶ月の産休明けから、週3日午前中だけ子供を保育園に通わせることにしました。これで少しは学業に専念できる時間を作ることができました。それにこの時間しか勉強できないとなると、否が応でもやらざるを得なくなりますよ。

    ちなみに同じ保育園に同じ年頃の子供を、週3日午前中だけ通わせているパパがいます。お迎えでよく会うので時々立ち話をするのですが、この方の職業は大学教員。この人ができるのであれば、学生の私はやりくりできるはずと時折励まされながらやっています。(もちろんお迎え遅れて保育園から怒られることもあって大変らしいですが・笑)

    ニュースはスマホをチラ見

    育児、学業、就業を三本立てするようになって、ソファに座ってテレビを見るような時間は1分たりともなくなりました。忙しい時はその週に世の中で起こった出来事も知らないくらい。スマホに表示されるニュースを、料理している間や、何かの待ち時間などにチラッと読んで世の中の動きを把握する程度の生活です。

    ノートに調べたいことややらなければいけないことを書き出しておき、とにかく一瞬でも空いた時間があったらその時間に検索するようにすると、本当にいろんなことをこなすことができることがわかりました。それでも友達や日本にいる家族とあまり会う時間がない分、メッセージのやりとりに多少だらだら時間を費やすのはOKとしています。

    夏休みこそ勉強のチャンス

    大学には社会人になってからすっかり忘れていた長い夏休みやクリスマス、イースター休暇があります。その間学生ももちろん休んでいいのですが、指導教官が休みをとっている長期休暇の時期こそ、遅れを取り戻すチャンスになります。

    またパートナーが休暇をとっているときには子守をしてもらって勉強したり、仕事に出かけたりすることができるので、彼の有給も大事な時間としてカウントしています。とはいえ、家族サービスもしなければいけないので、出張や学会を家族旅行として利用することにしました。ギリシャで行われた学会は家族に大好評でした!

    院生ママのリアルな日課公開

    保育園のある日のスケジュールは以下のような感じです。子供が寝てくれない日や体調を崩した日にはボロボロになります。睡眠は本当に大切ですね!

    6:00ベイビーに起こされて起床 > 朝食 >ベイビーと遊ぶ
    7:30保育園に送り出すと同時に勉強開始(並行して掃除と洗濯)
    13:00ランチ準備 > ランチ
    13:30保育園のお迎え > ベイビーと遊ぶ
    14:30お散歩と買い物
    16:00お昼寝と同時に勉強開始
    16:40お昼寝終了 > ベイビーと遊ぶ
    17:00ベイビーのディナー準備 > ディナー
    19:00ベイビーのお風呂 > 寝かしつけ(なかなか寝ない・・・)
    20:00ディナー準備 > ディナー
    20:30勉強開始
    22:00お風呂
    22:30就寝
    4:00夜間授乳 > 再び就寝

    研究プロジェクトの効率的な進め方

    1日に私たちが与えられる時間は24時間。25歳の独身学生でも、38歳の働く院生ママでも同じです。自分の時間をフルに使える20代と同じだけのことを成し遂げようと思ったら、とにかく効率よくやるしかありません!

    電子書籍で読む

    15年以上前にやった修士課程(MSc)のとき、参考文献を図書館に見つけに行くのにそれなりの時間を費やしたことを覚えています。もちろん当時から電子ジャーナルはありましたし、手に入るものもそれなりにありました。

    でも時代は変わって、今は世界中の文献を体系的に網羅検索して、それを全て確認するという作業をしなければいけません。しかも電子ジャーナルや電子図書の利点は、関連のある部分を一瞬で検索できる点。物理的な書籍を借りに行き、ページをめくって探していたのでは手際が悪すぎます!

    分野によっては古い文献を当たらなければいけないこともあるでしょう。私の分野は新しいものを読むことが多いのですが、それでも70年代の論文など電子化されていても画像になっていてコンテンツの検索ができないものはちょっとフラストレーションを感じますね。

    講義の動画を1.5倍速で見る

    ポストコロナ時代の利点の一つは、授業がTeamsなどで行われることです。もちろんリアルタイムで受講できるものはそうしているのですが、保育園の時間や子供の体調不良などでやむを得ない場合は、録画されたものを見ることもあります。

    この録画映像を見るという受講の仕方、質問ができなかったり、アクティビティに参加できなかったりというデメリットはありますが、効率をあげるという点で言えば、再生速度を変えることができる点です。90分の授業なら60分で見ることができますし、すでに知っていることや自分の研究に当てはまらない部分は2倍速で飛ばし見するということも可能です。

    書きながら進める

    「ライターズブロック」という言葉があります。何かを書こうとして紙やパソコンを前にしてみるものの、何も書くことが思いつかないという状態です。でも私にはライターズブロックに陥って、何か書くべきことが降ってくるまで待っているような時間はありません。

    ですから、どんなに拙文でも些細な思考過程でも構わないので、常に何かをメモのようにでも書き続けることを心がけています。特に先行研究の評価などでは、PRISMAフローに従って、使ったデータベースや検索ワードなどを細かく記録していく必要がありますから、作業の過程を文字にしていく習慣をつけると、後でレポートを書くときにもすでにまとまったコンテンツができていてとても助かっています。

    スピーキング力で試験を乗り切る

    イギリスの博士課程では、第一段階としてアップグレード・バイバ(Upgrade Viva)と呼ばれる口頭諮問試験があります。事前に提出した1万語程度のレポートに対して、ざまざまな質問が投げかけられ、どれくらい答えられるかを試されると同時に、これから研究を進めていく上で問題となる点を洗い出していくものです。

    レポートの提出からバイバまでに約1ヶ月の時間があったのですが、ここ数年の度重なるロックダウンで免疫力が落ちていたせいなのか、子供が保育園でもらってくるさまざまな菌に感染し続け、全く学業に割く時間がないまま試験日を迎えました。

    唯一頼りになったのは、博士課程進学の際の面接にも助けになった自分のパブリックスピーキング力だったと思います。かなり答えづらい質問が飛び交う中、これまでのキャリアで鍛えられてきたこの力がなければ、「Well defended(よく回答できた)」という評価をもらうことはできなかったと思います。

    ▶︎パブリックスピーキングのコツについては以下の記事に書いていますので、よろしければご参照ください。

    ▶︎英語のスピーキングに自信がない方は、発音矯正レッスンを受けると自信がつきますよ。実際私自身がそうでした!

    完璧を求めてはいけない

    こんなあたふたな状況でPhDをやる中で思ったのは、何事も完璧を求めていてはいつまでも進めないということです。さまざまな方法論やモデル理論が存在する中で、完璧な研究などというものは存在しないのかもしれません。(でも私は美しい研究というのはあると思っています。)

    そして人生でたくさんのことを経験し成し遂げたいのであれば、まずは最低限のラインをクリアしていくことにフォーカスしたいと思っています。書いたものを見直すと、ここもあそこも書き直したくなってしまうものですが、明日になればまた別のところが気になるもの。

    腹を括って提出してみて、指導教官や周りの研究者の指摘に耳を傾ける方が研究は捗るなと感じています。

    まとめ

    学業、仕事、育児の3足の草鞋を履くようになって、なんでわざわざそんなに苦労する生活しているの?という顔をされることもあります(苦笑)。それはごもっともで、自分でも突っ込みたくなることがあります。

    でも巡り合わせでやることになった研究と出産、自分の特技と興味を両立させる分野を選び、子供の将来にも役立つ研究だという実感があって、私は大変でも実はとても幸せなのです。

    寝る時間やソファに腰を下ろす時間を削って生活する大変さはあります。でもこのペースで全てのことをやったら、人生もっといろんなことができていたなという反省もあります。どうせもっと余裕があっても、私はもろくなことに使わないのだから、これくらいのプレッシャーがあるのが良いと考えることにしましょう。

    とは言いつつも、ちょっと止まって自分の1年を振り返りたくなったので、こんな記事を書いてみました。またアップデートをお届けしたいと思います!