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なぜイギリス人はヴィーガンになるのか

    ヴィーガンになるイギリス人

    ヴィーガンという言葉にみなさんはどれくらい馴染みがあるでしょうか?ヴィーガンは、ベジタリアンよりもさらに厳格に動物性の物を摂取しないという食に関する主義です。決して新しい概念ではないのですが、私の周りのイギリス人の間で、最近ヴィーガンの人が急激に増えています。

    一緒に暮らす私のパートナーも、昨年終わり頃にビーガンになりました。彼の食生活は典型的なイギリス人で、ハンバーガーやフィッシュアンドチップス、ポークベリーなどを愛していただけに、その食生活の変貌ぶりは衝撃的でした。この記事では、宗教や文化的な制限のない彼らがどうしてヴィーガンになることを選ぶのかについて少し考察してみたいと思います。




    なぜイギリス人は今、ヴィーガンになるのか

    ヴィーガニズムとは

    ヴィーガニズムとは、人間が動物を搾取することなく生きるべきであるという主義です。ベジタリアンが肉や魚を食べない人たちを指す言葉であるのに対し、ヴィーガンは肉や魚に加えて、卵や牛乳、はちみつなど一切の動物性食品を口にしません。

    食べる食品を限定する主義には、鶏肉は食べるけれど赤身肉を食べないポラタリアン、魚は食べるけれど肉は食べないペスカタリアン、肉も魚も食べないけれど卵や乳製品は食べるラクトオボベジタリアンなど、様々な種類があります。さらに、フレクシタリアンという主義もあって、普段はベジタリアンでも、人と食事をするときや、季節の行事のときなどは、肉や魚を食べるという形もあります。

    環境問題に対する意識

    このような食の限定の背景には、動物性の食品を口にすることにまつわるそれぞれの思想があるわけですが、最近私の周りでベジタリアンやヴィーガンになる人から聞く最も大きな理由の一つが環境に関わるものです。昨年は、エクスティンクション・リベリオンの活動をロンドンの街のいたるところで見かけましたが、ヴィーガンの増加は環境問題への意識の高まりと呼応しているように感じます。

    例えば、500gの肉を作り出すためには、7kgの牧草が必要です。アメリカで作られるとうもろこしの80%、オート麦の95%は家畜の餌となっていて、世界中の家畜の餌は87億人の人が必要なカロリー分の食物を消費していると言われています。

    500gの肉を作るのに、水は11300リットル必要ですが、500gの小麦を作るのに必要な水はたったの113リットルです。さらに、1つの養豚場の廃棄物は、人口12000人の町の廃棄物に相当すると言われています。さらに動物が排出するメタンガスや土地利用の問題など、環境への影響は小さくありません。

    ドキュメンタリーの影響

    Netflixで食肉消費の環境への影響についてのドキュメンタリーが見られていることも、ヴィーガンが増えている理由の一つです。実際私の周りでも「Cowspiracy」や「The Game Changers」、「HOPE」といったドキュメンタリーを見た後に、肉を食べなくなった、食べられなくなったという人が少なからずいます。

    https://www.cowspiracy.com/
    https://www.hope-theproject.com/
    https://gamechangersmovie.com/

    健康に対する意識

    イギリスでは大人の4人に1人が肥満だと言われています。肥満まで行かなくても太り過ぎの人は人口の60%を超えています。さらに肥満が原因で病院に運ばれる件数も増加傾向にあるほか、糖尿病の患者数も増加の一途をたどっていて、食を巡る健康問題はイギリスでは並々ならぬテーマなのです。そんな中で菜食主義に切り替えれば健康になれるというのは飛びつきやすい考えなのかもしれません。

    個人的にはヴィーガンになるよりも、ビールの消費を抑えるほうが手っ取り早いように思いますが、最近はお酒類もヴィーガン製品が出回っていて、酒量を減らすという意識はまだないようですね(笑)。肥満対策なら食べる量を減らすこともできると思うのですが、私の周りの人たちは植物性のものに変えて今まで通りお腹いっぱいの量を食べるという行動を取っている人が多いようです。その辺りがイギリスらしいなと思います。

    最近ではコロナウィルスで肥満や糖尿病の人が亡くなったことを受けて、イギリス人の健康に対する意識は様々なメディアを見ても加速していることを感じます。

    動物愛護の精神

    ヴィーガンになった人からよく聞くのは、「動物を殺したら可哀想だから」という言葉です。彼らがそう感じるようになるのには、豚の知能は高いことを知ったから、可愛らしいラムが飛び跳ねる姿を見たから、牧場で牛の殺戮を見てから気持ち悪くなったなどいったきっかけがあるようです。

    1824年に世界で初めて動物愛護団体が誕生した国というだけあって、今でもイギリスにはRSPCAなどをはじめ、たくさんの動物愛護団体があり、またテレビCMなどでも動物保護のための募金を募るものをよく見かけます。その伝統もあってか、動物を殺して食べるということに一度疑問を抱いた人はその観念から離れられないようです。

    食文化の弱さ、加工食品の多さ

    イギリス人が簡単に肉や魚を諦めることができるのは、もともとイギリスの食文化がそれほど豊かでないことが背景にあるのではないかと感じます。日本人は、和食という食文化に伝統と誇り、そして愛情や執着を持っています。私たちがこれまで食べてきた伝統の料理を断念するとなれば、文化的アイデンティティの一部を捨てるという感覚になるのではないでしょうか。もともと食に対する意識が高くないイギリスだからこそ、環境や健康といった別の価値観のために、従来の食事を諦めることができるのではないかと思います。

    また、もともと加工食品が多い食文化を持った国であるため、ベジタリアンやヴィーガン用の代替品が機能しやすくもあります。なんらかのタンパク質を他の材料と一緒に混ぜてしまえば、肉や魚が入っていない事に対してそれほど違和感は感じないからです。それゆえに、ヴィーガンソーセージやヴィーガンバーガーは最近本当に人気があります。イギリスの代表的な料理の一つ「ソーセージロール」のヴィーガン版が「Greggs」というチェーン店で売られ始めてからは、本物のソーセージロールよりも売れ行きが良いようです。

    イギリス料理の定番メニューについてはこちらの記事を参照ください。

    ヴィーガンは何を食べているのか

    クォーン

    クォーン(Quorn)はイギリス発祥の肉の代替物です。北ヨークシャーに本社を構える同名の会社が1985年から作っているもので、肉の代わりとしてレトルト食品などに広く多く使われています。菌類を原料とするマイクロプロテインと呼ばれるものから出来ているもので、食べた感触が肉に似ていることから欧米の多くの国々で人気を得ています。

    もともと肉を使うレシピの料理に肉の代わりとして入れることで、擬似的にそのオリジナルの料理を食べている感覚を味わえるというものなのですが、あくまでソーセージやハンバーガー、チリ・コン・カーネなど調味料や他の材料を多く使う肉の加工食品の代替品にはなっても、塩だけで肉の素材そのものを味わう石焼きステーキの代わりにはなりません。

    さらに植物性食品ということで、環境や健康に気を使う人々の間で重宝されているわけですが、実はかなり人工的な作られ方をしていることから、その安全性には疑問が残る部分もあります。少し前にガーディアン紙の記事でも取り上げられていました。

    豆腐

    肉や魚を取らないヴィーガンにとって主要なタンパク源となるのが豆腐です。イギリスのスーパーマーケットでも豆腐は普通に売られていますが、日本の木綿豆腐よりもさらに硬いテクスチャのものが主流です。「The Tofoo Co.」というブランドのものが、一番よくみかける豆腐のブランドですが、日本の豆腐よりも密度が高いため、一丁程度のサイズの豆腐を食べるとかなりお腹いっぱいになります。肉の代わりに食べるのですから、それくらい満足感が必要なのかもしれません。

    豆腐を肉の代わりとしてカレーに入れたり、片栗粉をまぶして揚げたりするレシピは最近かなり定着してきました。そのうち油揚げや湯葉、がんもどきなどもうまく紹介されれば流行るのではと密かに思っています。

    ひよこ豆、レンズ豆、インゲン豆

    豆腐に見られるように大豆は大切なタンパク源ですが、大豆アレルギーの人も少なからずいるようで、そういった人が率先して食べているのが様々な豆類です。ビタミンも豊富ですし、自然な食材、さらに缶詰で売られているため日持ちもするということで、豆はヴィーガンにとってなかなか重宝する食材と言えます。

    オートミルク、アーモンドミルク

    牛乳の代替品として、おそらく想像するのは豆乳だと思いますが、フレーバーが強いためコーヒーなどに入れるのであればよりニュートラルな風味のオートミルクの方が適しています。最近はカフェでも牛乳以外のミルクでカフェラテやカプチーノを作ってくれるところも増えています。オートミルクやアーモンドミルクは、牛乳とも少し違うそれぞれに良い風味があるので、私は用途によって使い分けるようにしています。でもシリアルを食べるのであればやはり牛乳がいいですね。

    ココナッツヨーグルト

    ヴィーガン食材の中で私がもっとも気に入っているのが、ココナッツヨーグルトです。中東南アジアではカレーを作ったりするのにも使われているようです。普通のヨーグルトよりもテクスチャは軽く、ふらりとした感触なので、ヨーグルトの代替品としてフルーツと一緒に食べると生クリームをかけたような舌触りとココナッツのフレーバーが合わさってデザート感覚が倍増します。

    チーズ、マヨネーズ、バター

    驚くのは、肉の代替品だけではなく、ヴィーガンマヨネーズ、ヴィーガンバター、ヴィーガンチーズなど、普通は動物性の材料を使って作られるものの代替品が販売されていることです。普通のスーパーマーケットのマヨネーズコーナーやバターコーナーに行けば、ヴィーガン用食品も大抵手に入れることができます。そのものを食すのではなく調理に使うのであれば、ほとんど本物と区別できない仕上がりになります。あえて言うならヴィーガンチーズの人工的な匂いにだけはどうしても慣れません。

    ナッツ

    イギリスでは「クリスプス」と呼ばれるポテトチップス。サンドウィッチのお供として欠かせないイギリスのランチ付随品ですが、その代替品として好まれているのが様々なナッツ類です。カリカリとした食感はポテトチップスと同じような楽しみを与えてくれます。それと同時にミネラル分も豊富であることから、スナックとしてナッツが好まれています。ドライフルーツと混ぜて売られているコブクロなどもよく食べている人を見かけますね。

    サプリメント

    今まで食べていた食品を摂らないとなると、野菜や豆、ナッツ類からほとんどの栄養素は取ることができますが、魚に含まれるオメガ3のようにヴィーガンの食事で取りきれないものはサプリメントで補っている人が多いようです。ただ、私はこれが健康かと言われると少し疑問なのですが、ヴィーガンの中でもさらに厳格なフルーツ類しか食べないフルタリアンなどになると、栄養が偏ってしまうため、やはりサプリメントが必要なのかもしれません。

    日本人とヴィーガニズム

    イメージが湧かない

    日本にいる私の母に、パートナーがヴィーガンになったという話をしたら、彼が一体何を食べているのか想像もつかなかったようでかなり困惑した様子でした。母は一体何を作ってもてなせばいいのか、苦労するのだと思います。幸い私の彼はフレクシタリアン的なところがあるので、私の家族へのリスペクトという意味では肉や魚を食べます。ただ食というのは文化ですから、環境が整った場所でないとヴィーガンになるのは難しいのかもしれません。

    外食のときに困る

    10年以上前日本に住んでいた頃、ベジタリアンの男性と付き合っていたことがありましたが、外食するときに彼の食べられる物があるレストランを探すのに非常に苦労しました。日本食には肉や魚を使っていないメニューもたくさんあると思う人もいるかもしれませんが、日本食のほとんどがカツオダシやチキンストックを使って作られています。精進料理でないかぎり、ヴィーガンの人には向きません。とくにダシの場合は抜くのが難しいため、レストランでなんどもベジタリアンメニューはできないと言われました。

    和食でなくなる

    もし私たち日本人全員がヴィーガンになったら、世界に誇るべきメニューであるお寿司も、すき焼きも、しゃぶしゃぶも、おでんも、ラーメンも、トンカツも消えてしまいます。もちろん代替品で日本食を再構成するということはできると思いますが、あまりに加工した人工物は避けたいものです。

    もともと日本は世界的に見て、肉の消費量の多い国ではありません。それはおそらく海産物や野菜、豆類など、食材の種類が豊富だからだという気がします。個人的にはこれもあれも食べないという主義でなく、様々なものを少しずつ頂くというスタンスが程よいのではないかと思っています。

    まとめ

    最近イギリスでは、どんなレストランに行ってもベジタリアンやヴィーガン向けのメニューがあります。さらにすべてのメニューがヴィーガンというレストランも増えてきています。今はまだコロナウィルスのロックダウン中でレストランは営業再開していないのですが、テイクアウェイは可能です。先日もヴィーガンハンバーガーの専門店「Neat Burger」の宅配サービスを利用しました。ヴィーガンバーガーなのにメニューではチキン、ビーフなどが選べます。ソースの風味の助けもあって、言われなければ肉でないとは気付かない出来でした。