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イギリス料理がまずいと言われるのはなぜ?

    イギリスでテレビや雑誌の取材をする中で、日本のプロデューサーや編集者の方からよく聞かれるのが、イギリス料理はまずいのか?という質問です。皆さんも、イギリス料理はまずいという話を聞いたことがあるかもしれません。本当にバラエティに富んだグルメを様々な文脈から追求する日本人からすると、少なくともイギリス料理は非常に簡素だと言えます。

    この記事では、イギリス料理の「おいしい・まずい」について、私の取材経験などを交えて少し議論してみたいと思います。イギリス料理についての取材や記事執筆のご依頼はお問い合わせページからお気軽にどうぞ。

    イギリス料理はおいしい?まずい?

    おいしい料理と一言で言っても、B級グルメからミシュランスターまで様々なものがあるように、イギリス料理についてもおいしい・まずいの二択で答えられるものではないかもしれません。最初に簡単に私の見解を示しておくと、日本とイギリスでは料理に対するおいしいとまずいの基準がそもそも異なる、というものです。まずはイギリス料理にはどんなものがあるのかを確認しつつ、それからイギリス料理がまずいと言われる所以について分析してみたいと思います。

    有名なイギリス料理

    そもそも、イギリス料理にはどんなものがあるのでしょうか?まずは定番のイギリス料理を見ておきましょう。

    フィッシュアンドチップス

    おそらく、イギリス料理と聞いて誰もがイメージするのが、フィッシュアンドチップスではないでしょうか?衣を付けた魚を揚げて、チップスと呼ばれる厚切りのフライドポテトを添えた古典的なイギリス料理ですね。通常魚はタラまたはハドックを使います。塩とビネガーをかけて食べるのが基本ですが、マッシュしたエンドウ豆のソースやタルタルソースと一緒に楽しむこともよくあります。付け合わせには、卵や玉ねぎのピクルスなどもあります。

    ロースト

    英国の伝統的な日曜日の食事で、サンデーロースト、サンデーディナーとも呼ばれています。通常はオーブンで焼いたロースト肉 (牛肉、鶏肉、子羊肉、豚肉など) にローストポテト、ヨークシャー プディング、野菜、グレービーソースを添えていただきます。日本人には薄切りのローストビーフを想像する人が多いようですが、そこまで薄切りでないこともあります。付け合わせの野菜には、ジャガイモ、ニンジン、パースニップ、場合によっては芽キャベツなどがあり、お皿の全体にグレービーソースをかけていただくのが基本です。

    イングリッシュブレックファースト

    フランスやイタリアなど大陸ヨーロッパの朝ごはんが、チーズやハムをベースとした冷たいものとパンなどが基本なのに対して、イギリスは朝からしっかりとフライパンで調理した熱い食事が出されます。ベーコン、ソーセージ、卵、グリルトマト、マッシュルーム、ベイクドビーンズ、トーストが含まれるボリュームたっぷりの朝食は、1日の元気の源にもなります。通常卵は、目玉焼き、スクランブルエッグ、ポーチドエッグ(殻を割って中身だけをお湯の中で茹でた卵)の中から選ぶことができ、個人的にはとろーりと黄身がとろけ出る、ポーチドエッグが一番のオススメです。

    アフタヌーンティー

    さまざまな種類の熱い紅茶と共に、きゅうりのフィンガーサンドイッチ、クロテッドクリームとジャムを添えたスコーン、各種ケーキやビスケット、甘いペストリーなどが3段に重ねられたお皿に乗せられた料理です。 通常、午後3時から午後5時頃までの時間に提供される軽食で、昼食と夕食の間の時間を埋めるものです。 伝統的にはおいしい食べ物や飲み物を楽しむだけでなく、社交的な側面も兼ね備えています。

    パブ料理の定番

    シェパーズパイ

    シェパーズパイはラムのミンチ肉と野菜、グレービーソースを重ね、その上にクリーミーなマッシュポテトをトッピングしてオーブンで焼き上げたパブ料理の定番です。

    コテージパイ

    シェパーずパイとも見た目は似ていますが、コテージパイはラムの代わりに牛肉のひき肉が使用されます。シェパーズパイと同様に、コテージパイは野菜とグレービーソースで調理したひき肉を使用し、マッシュポテトをトッピングして焼き上げた料理です。

    フィッシュパイ

    タラやサーモン、エビなどのシーフードと、エンドウ豆やニンジンなどの野菜をクリーミーなソースであえ、その上にマッシュポテトをトッピングしてオーブンで焼き上げた料理です。見た目はシェパーズパイやコテージパイとも似ています。

    キドニーパイ

    濃厚なグレービーソースで調理した牛肉または子羊の腎臓をサクサクのパイ生地で包み、風味豊かで独特な英国料理を作り出した伝統的な風味豊かなパイです

    ソーセージアンドマッシュ

    バンガーズアンドマッシュなどとも呼ばれ、ソーセージ (バンガーズ) とマッシュ ポテトにグレービーソースをかけていただく料理です。多くの場合とろりととろけるまで煮込んだ玉ねぎが入ったオニオングレービーソースが使われます。

    イギリス料理のスナック

    ソーセージロール

    味付けしたソーセージ肉を詰めてパイのような生地の中に包んできつね色になるまで焼いたサクサクのスナックです。小ぶりなサイズで、フィンガーフードとしてもいただきやすいことから、ピクニックやパーティーの人気の一品でもあります。

    スコッチエッグ

    ゆで卵をソーセージ肉で包み、パン粉をまぶして揚げた料理です。スナックとして親しまれている料理ですが、レストランでは前菜としてメニューに載っていることもあります。

    コーニッシュパスティ

    イギリス西部のコーンウォール地方発祥の料理で、肉、ジャガイモ、野菜などを煮込んだものをパイ生地のようなペストリーで包んで焼いたものです。いくつかの種類があって、カレーを包んで揚げたパスティも個人的にはオススメです。

    ベーコンサンドウィッチ

    カリカリに焼かれた大振りの香ばしいベーコンを、バターを塗ったパンに挟んでいただくシンプルなサンドウィッチです。ベーコンにはブランソースをかけていただくとより風味がアップします。

    イギリス料理のデザート

    ヴィクトリアスポンジケーキ

    2層の柔らかいスポンジに甘いジャムと甘いホイップ クリームをたっぷりと塗ったイギリスの伝統的なケーキです。日本のショートケーキにも少し似ていますが、もっと甘いことが多いです。

    スティッキートフィープディング

    濃厚でしっとりとしたデーツベースのスポンジケーキにトフィーソースをたっぷりとしみ込ませ、バニラカスタードやアイスクリームを添えていただくケーキです。

    イートンメス

    砕いたメレンゲ、ホイップ クリーム、新鮮ないちごやラズベリーなどのベリーを鮮やかにブレンドしたデザートです。風味と食感の甘美はもちろん、ピンクと白が視覚的にも可愛らしい一皿です。

    イギリス料理がまずいと言われる理由

    前述のイギリス料理ラインナップをみて、皆さんはおいしそうだと思ったでしょうか?まずそうだと思ったでしょうか?以下、いくつかの観点からイギリス料理がまずいと言われる理由について分析してみたいと思います。

    食材の豊かさ

    イギリス料理がまずいと言われる理由の一つには、使われている食材の乏しさが挙げられます。沖縄から北海道まで様々な気候を持つ日本と比べると、イギリスは全国を通してそれほど気候が変わりません。高い山もなく平坦な地形であることから、育つ食材もそれほどバラエティに富んでいるわけではないのです。それゆえか、イギリス料理のラインナップを見るとじゃがいもと小麦ベースの料理が多いことに気づくでしょう。

    さらに、一回の食事に使われている具材の数が少ないのも特徴です。日本では一日30品目食べましょうなんて言いますが、イギリスではファイブ・ア・デーなどと言って、1日5つの野菜と果物を食べましょうというのがキャッチフレーズになっています。調味料もかけずに焼いたトマトや茹でたインゲン豆が一品と数えられるような食文化ですから、おそらくイギリス料理で3色食べても30品目に達するのは難しいですよね。豊かな食材をおいしさの要素の一つと考える日本人からすると、イギリス料理は栄養面でも貧相でまずいと捉えられるのかもしれません。

    季節の彩

    イギリスには四季がありますが、日本のような暑い夏があるわけではありません。だからと言ってとても寒い冬があるわけでもありません。ロンドンで雪が降るのは一年に1、2度程度で、東京と同じようなものです。一年を通して秋のような気候の時期が長く、日本のように季節の味覚がはっきりしていないのも、イギリス料理が美味しくないと考えられる理由の一つと言えます。

    イギリス料理は基本的に季節によってラインナップが変わるということがほとんどありません。よって季節の彩がお皿に反映されることも稀です。一年を通して出されるイギリス料理は、フィッシュアンドチップスがその典型であるように、茶色の衣と黄色のポテトという何度も地味な色合いが基本なのです。料理を目で味わう日本人からすると、がさっと大胆に大皿に盛られるベージュの食事がおいしそうに見えないというのもご最もな意見です。

    調理の仕方

    日本の調味料の基本は「さしすせそ」などと言われますが、イギリスでは調理の過程で調味料をかけるというよりは、シンプルに茹でたり焼いたりあげたりしたものに、後からコンディメントと呼ばれる調味料、つまりソースなどをかけていただくことが多いです。このような調理法ゆえに、食材の奥に染み込んだ繊細な味付けというよりは、ごっそりかけられたソースの味に頼ってしまうことになります。

    このソース類は、皿に複数の料理が盛られた場合、全部のものにかかったり混ざったりしてしまうのも日本人には多少許し難いところがあるのかもしれません。とはいえ、きちんと調理されたイギリス料理は、外はカリカリ、中はフワフワのものが多く、そこにとろーりとしたソースを添えていただくと非常に食感的にもバランスが取れておいしいとも言えます。

    結論

    日本料理と比較すると、イギリス料理には食材の豊かさ、季節の彩、調理方法など、非常に異なる点があるのに気づいていただけたと思います。でもそのような「おいしい」の定義は日本人であるが故の固定概念なのかもしれません。食材に乏しくても、彩が地味でも、一皿に大胆に盛られてソースに埋もれていても、完璧に調理されたものであればイギリス料理はやはりおいしいのです。なんなら、「まずいフィッシュアンドチップス」と「おいしいフィッシュアンドチップス」を食べ比べてみてください。おいしいの定義がそこにあることに気づくでしょう。

    色は文化というように、長年イギリスで暮らす中で思い出の味として発展したイギリス料理が私の中にはあります。遅延した電車の中で頬張ったベーコンサンドウィッチにブランソースをかけたあの感じ。レタスもトマトも挟まっていないベーコンだけのサンドウィッチなんて、とイギリスに来た当初は思っていたのですが、その思い出とともに私の中でのおいしいものの一つになりました。

    皆さんもイギリスにお越しの際は、今まで持っていたおいしいの基準を変えて、イギリス料理を味わってみてはいかがでしょうか?