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イギリスで高齢妊娠が判明して思ったこと

    高齢での妊娠・出産がリスクを伴うことは、誰もがなんとなくは知っていることだと思います。20代を学業やキャリアに明け暮れて過ごす女性も増える中で、30代後半になってから子供を持つ女性も少なくない時代。

    子供は今や35歳を過ぎてからでも遅くないという意見も多く聞かれます。実際、私が出産することになった病院の初産の母親の平均年齢が38歳だそうで、私は若い方に入ると言われて驚きました。

    私の周りの女性たちも、子供を持ち始めるのはみんな30代半ばを過ぎてから。そんな中でキャリア思考で突っ走ってきた私は、35を過ぎても「まだ大丈夫」という安易な幻想を持っていたように思います。

    ところが、実際に妊娠に向き合うことになり、様々な科学的データを目の当たりにした時、これまで持っていた幻想とのギャップに大きな衝撃を受けることになりました。この記事では、私が20代のうちに知っておきたかった、高齢妊娠に関わる3つのリスクについて、3つのグラフとともにお話ししていきたいと思います。

    高齢妊娠のリスク

    30代後半以降での妊娠率

    下のグラフは、ヨーロッパとアメリカの国の女性のそれぞれの年齢における妊娠率を示したものです。国によって多少ばらつきはありますが、20代後半から30歳頃をピークに、その後急激な妊娠率の低下が見られるのがわかると思います。

    Modeling fertility in modern populations
    Kostaki & Peristera, 2007
    DOI:10.4054/DemRes.2007.16.6

    子供を持つのは、独身時代にやりたいことをやってから、経済的な基盤ができてから、というのが理想です。社会的な価値観が変わって、30歳前に子供を持つカップルは「若い親」と捉えられるような時代です。でも、生物学的な妊娠率の変化はそれに追いついていないように思います。

    私自身が30歳を超えてから、どこか焦りを感じていたのは、どれほどメディアが高齢出産の可能性を取り上げても、上記のような統計的なデータを見てみぬふりするわけにはいかなかったからです。もちろん、40歳を過ぎても健康な子供を出産できる女性も数としてはたくさんいます。でも、確率的に自分がその一人に該当するかどうか、それは検査をしてみない限りわかりません。

    30代前半でも不妊治療を始める友達の話もたくさん耳にしながら、統計の数字から目を背けてはいけないと感じていました。

    妊娠発覚後の流産率

    30代後半になってから妊活を始めたにしては、それほど時間を要さずに妊娠することのできた幸運な私ですが、その後も高齢妊娠の不安は付き纏いました。35歳以上での妊娠率ほど知られていない高齢妊娠のリスクとして、流産率の高さがあります。

    以下のグラフは、母親の年齢別の流産率を示しています。30代後半になると急激に流産率が上がるのが見て取れます。幸運に妊娠することができても、20代での妊娠に比べて流産率が高い中で、私自身も安定期を迎えるまでずっと不安でした。

    What is the right age to reproduce?
    Bewley, 2006
    DOI:10.1017/S0965539506001781

    私は妊娠全体における流産率が20〜25%にも及ぶということは、自分が妊娠するまで知りませんでした。妊婦の多くが実は流産の経験を抱えているというのも、この数字からよくわかります。それがさらに40歳を超えると40〜50%にも至ります。

    最近はメガン・マークルやミシェル・オバマ、ビヨンセなどのセレブが、自らの流産経験をメディアで語るようになって、流産についての現実を見つめる機会も増えました。もちろん、流産してもまた妊娠して無事出産することも多くあります。

    それでも、妊娠することができたらそれで万々歳ではないという高齢妊娠の現実は、女性なら知っておくべきことの一つかもしれません。

    胎児の染色体異常の確率

    無事に妊娠し、心拍を確認することができたとしても、高齢妊娠だとそれで安心というわけにはいきませんでした。私が不安に思っていたのは、胎児の染色体異常の確率です。

    以下のグラフは母親の年齢別の染色体異常の確率を示しています。一般にもよく知られているダウン症のほか、エドワード症候群、パトー症候群の確率も示されています。染色体異常が原因で、出産まで至らず流産してしまうこともあります。

    Maternal age in the epidemiology of common autosomal trisomies
    Cuckle & Morris, 2020
    https://doi.org/10.1002/pd.5840

    私の住んでいるイギリスの医療制度では、無料で出生前診断(エコー検査での測定と血液検査を複合したコンバインド検査)を受けることができます。その検査結果が届いて、胎児が染色体異常を持っている確率が極めて低いということを確認できたとき、私はやっとこの子はちゃんと生まれてくれるはずと確信できたのを覚えています。

    いつか子供が欲しいならやっておきたいこと

    卵子凍結は敷居が高い

    子供を持ちたいと思いながらも、それができる境遇に恵まれないという女性は少なくないと思います。私自身もその一人でした。20代後半で婚約しながらも、30を超えた頃その婚約は破棄することになり、婚約期間の5年間、私は生物的体内時計の時間を無駄にしたと強く感じていました。

    時間がないと焦る中で、卵子凍結を考えたこともあります。ロンドンのクリニックのセミナーなどに参加もしました。ただ、具体的な説明を聞いた後、卵子凍結はかなり敷居の高いものだと個人的には感じました。サービスの値段が高額である上、その成果は偶発的な条件に頼らざるを得ず、さらに卵子を使う時来るまでの長期的なコミットメントを求められるからです。

    精子バンクという選択肢もある

    仕事をしている独身女性であれば、100万払って卵子を採取し、凍結すること自体にはそれほど抵抗がないかもしれません。でも、冷凍料を払い続けていつまでその卵子を保存し続けるのか、そしてそもそもその卵子を使う時がいつか訪れるのかと考えると、私は卵子凍結に踏み切ることができませんでした。

    本当に子供が欲しいなら、今すぐ精子バンクから精子をもらって独身のまま子供を持つことも、イギリスでは可能だからです。将来理想のパートナーに出会うという儚い夢に賭けるのか、それとも現在の若い身体を子供を持ちたいという夢に使うのか、その決断をしないまま私は35歳の誕生日を迎えていました。

    卵巣予備能検査は受けるべき

    唯一絶対にやっておくべきだと思うのは、卵巣予備能検査です。卵子凍結のように高額なものではなく、健康診断のような感覚で受けることができ、自分の将来の妊娠可能性についての現実を科学的に知ることができるからです。

    現在の自分にはどれくらいの妊娠能力があるのか、どれくらい時間が残されているのか、それをきちんと知ることで、自分の描く未来を手に入れるための将来設計をすることができると思います。

    まとめ

    女性にとって子供を持てるかどうかというのは、本当に大きなことだと思います。キャリアを優先すること、理想のパートナーとの出会いを待つこと、それもまた立派な将来設計であり、尊重されるべき選択です。

    でも残念ながら子供を持つことが優先である女性は、生物学的事実と向き合わなくてはいけません。統計が示す年齢の残忍さとも和解しなくてはいけません。

    特に高齢で無事妊娠、出産に成功した話が、辛い結果を招いたエピソードよりも多く取り沙汰されるために、今の時代、妊娠出産はいつでもできるというイメージを多くの人の間に抱かせているのかもしれません。

    実際、私自身もその一人でした。20代は大学院留学を期にロンドンに移住し、それから世界中を飛び回ってテレビや雑誌のための取材をする生活をしていると、あっという間に30歳を過ぎていました。

    高齢妊娠で授かったからこそ、余計に大事に思えるというのもあながち間違った意見ではありません。3つの統計が示す壁を乗り越えて、今この子がいるという気もします。でも、社会の幻想に騙されずに、私は科学的事実をもっと知っておくべきだったと感じています。そして、今の時代は、さまざまな境遇の女性が置かれた現実に対処するだけの、選択肢があるということも知っておくべきことだと思います。