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社会人から博士課程は辛い?

    大学や修士課程を卒業し、社会に出て働いた後、再び大学に戻って博士課程に入るのは辛いことでしょうか?この記事にたどり着いた方は、社会人として仕事をする中でもっと学術界に戻って研究してみたいテーマを見つけた、あるいは修士課程で何かやり残した研究がある方なのだと思います。

    筆者は30代後半で、イギリスの博士号(PhD)取得を目指している女性です。事実婚で子供もいます。筆者が社会人を経験した後に、なぜ博士課程に入ったかの経緯については下の記事に書いていますが、結論からいうと「社会人から博士課程に入って辛いこと」はもちろんあります。でも同時に社会人を経験してから博士課程を始めた強みもあります。

    この記事では、社会人から博士課程に入ることを現実的に検討している人の参考になるように、社会人経験者ゆえに辛いことと、社会人経験者ゆえの強みを本音でお話ししたいと思います。

    社会人から博士課程は辛い?

    社会人を経験して大学の博士課程に戻る辛さは実際にあります。でも、博士課程って社会人を経験してようが、してまいが、辛いことがある大プロジェクトなのではないでしょうか?

    筆者の周りには、社会人をしてから博士課程に入った人、博士号を取得した人がたくさんいます。キャリアアップの一環でやったり、キャリアチェンジのきっかけにしたりと目的は様々です。

    大学を卒業し、新卒で採用された会社で一生働くという一貫した人生がスタンダードでなくなってきている今、キャリアの途中で博士課程に戻ることは決して珍しいことではないのです。

    社会人から博士課程で辛いこと

    とはいえ、社会人から博士課程の学生になって辛いことはそれなりにたくさんあります・・・。以下筆者自身や筆者の周りの人たちの経験も踏まえた本音をお話ししていきます。

    収入の激減

    まず何よりも、社会人から博士課程に入って何よりも辛いことは、お金に関することです。筆者は30代後半で博士課程を始めたので、年齢相応の年収を稼いでおりました。それが学生になることで激減するわけですから、銀行口座を見るのにも辛いものがあります(苦笑)。

    幸いに、筆者はイギリスの大学の奨学金付きのオファーをもらって博士課程に入ったので、収入がゼロになったわけではありません。学費も奨学金に含まれていたので、授業料なども払わずに済んでいます。

    とはいえ、学生の奨学金ですから以前に稼いでいた収入とは比べ物にならない金額です。それでもお金をもらって博士号をやらせていただいているので、安い仕事に転職した、くらいのつもりやっています。

    親に学費を出してもらえない

    学部を卒業して、修士課程に進み、そのまま博士課程に進学したのであれば、おそらく学費は親に出してもらうことも可能だったと思います。でも社会人になると、親に頼るわけには行かないですよね。よって学費と生活費は自分でやりくりしなければいけないことになります。

    結婚していると旦那から皮肉

    社会人の人が博士課程へ入ることを考える上で、結婚しているかどうかにも大きな違いがあると思います。社会人でも独身の人であれば、自分の時間やお金の使い道は自分に決定権が100%ありますが、旦那さんがいるとそうはいきません。

    博士課程はほとんどの場合3年以上のコミットメントを求められますから、その間の学費や生活費は誰が出すのかということにもなってきます。奨学金をもらっていれば、その中から家計に貢献することができますが、そうでなければ社会人として、十分な貯金をした上で博士課程に望まないと、家庭のトラブルの元にもなるので注意が必要です。

    子供がいると時間が足りない

    さらに、子供がいるかどうかというのも問題になります。筆者は妊娠中に博士課程を始めたので、乳幼児の世話をしながら博士課程をやっています。何が一番の問題かというと、とにかく時間が足りません!

    掃除・洗濯・料理を全てこなし、子供の世話や相手をしながら博士課程の研究をやるとなると、睡眠時間を削るしかないこともしばしばです。

    以下の記事↓にも詳しく書いていますが、やはり全く保育園に預けずに博士課程をやるのは不可能だと思います。でもその場合、保育園代は誰が出すの?ということにもなります。学費や生活費に加えての支出が出てくるので、家族のサポートがない場合は、その分の貯金も必要になります。

    卒業後の就職への不安

    博士課程の学生が抱えている不安の一つに、いつ卒業できるのか?というものがあります。博士課程は非常に大きなプロジェクトですし、その実験を成功させ、博士論文を書き上げないと卒業できませんから、当然のことです。

    学生であれば、満期になるまでモラトリアムを続けるようなオプションも容易に選択できると思います。でも社会人から博士課程に入った場合、上記のような経済的な制約がありますので、何年も博士課程でいるわけにはいきません。

    さらに、これまでやっていた仕事をやめて博士課程に飛び込んだような場合、博士号取得後また再就職したりキャリアチェンジしたりできるかという不安が常に付き纏います。

    若い学生がライバル

    最近は社会人をしてから博士課程に戻る人も多くなってきたので、それほど気にする必要はないと分かっていても、やはり周りを見渡すと自分より若い学生たちが悠々自適に研究生活を送っているという状況になります。

    自分よりも15歳も若い子たちが、専門性の高い言葉で議論しているのに巻き込まれたりすると焦りを感じたり、ちょっと劣等感に苛まれたりすることも、筆者自身ないわけではありません。

    社会人から博士課程の強み

    ここまで社会人から博士課程をやると辛いことについてお話ししてきましたが、辛いことばかりではありません。社会人を経験してから博士課程をやってよかったと思うことも実はたくさんあります。

    研究の目的が明確

    筆者は、博士課程の研究提案に、自分が社会人をして直面してきた問題を設定しました。それはおそらく修士課程終了後すぐに博士課程に進んでいたらなかった気づきに基づいています。

    解決したい問題が明確な場合、研究の目的や研究に対するビジョンが明確になります。また研究のインパクトを考える上でも、学生よりも広い世界を見てきた社会人ゆえに持っている視点というのが絶対にあるはずです。

    プロジェクト管理能力

    博士課程は3年以上に及ぶ大きなプロジェクトですから、管理能力がないと方向性を見失ってしまいますし、期限内に終わらせることができないということにもなりかねません。

    でも社会人経験者なら、プロジェクトを管理したり、締め切りに間に合わせたりという能力は必然的に養われているのではないでしょうか?学部時代の暢気な勉強気分は忘れて、博士課程を仕事と割り切って取り組んだ方が効率が良いことは間違いありません。

    指導教官との付き合い方

    10代、20代の学生の頃、大学の教授は自分とはとてもかけ離れたものすごい「偉い人」という気がしていました。質問をするのにも気が引けましたし、教授の意見に反対するなんてことは絶対に考えられませんでした。

    でも社会人をしてから博士課程に入ると、指導教官との年の差は10歳程度、あるいはほとんど同じ歳、年下なんてこともあるかもしれません。そうするともっと対等な関係を築くことができ、意見も言いやすくなります。

    共同研究者との付き合い方

    共同研究者との付き合い方も、社会人を経験していると上手く関係を築けるのではないでしょうか。自分の研究にも相手の研究にもメリットとなる解決策を提案するのは、業務依頼を受けてクライアントと一緒にお仕事するのに似ていると筆者は感じています。

    個人的には指導教官は上司、共同研究者はクライアント、くらいの距離感で付き合っています(笑)。

    気持ちの切り替えが早い

    博士課程をやっていると、傷つくことがたくさんあります。指導教官からダメ出しをされたり、出版を目指してジャーナルに提出した論文に、散々な批判がつけられて戻ってくることもあります。

    そんなとき、社会を知らない若い独身だったらきっと相当なダメージを受けていたと思います。でも今は子育てもあって忙しいので、あまりショックを受けているような時間はありません。いろんなことを引きずったり悩んだりすることを最小限にして、気持ちをどんどん切り替えて進めるのも、社会人から博士課程にきた強みです。

    まとめ

    いかがでしたでしょうか?この記事を読んで、博士課程をやろうと思ったか、やめようと思ったかはそれぞれだと思いますが、筆者は挑戦する選択を押したいです!人生はいろんな経験をした方が面白いですし、博士課程での収穫は必ずあるからです。

    強いていうなら、奨学金あるいは貯金を確保してから臨むことがポイントですね。社会人でやはり人に頼ると、研究にも制限や支障が出てきてしまうと思います。

    最後に、筆者の指導教官からのアドバイスを引用しておきます。筆者が実際に教授陣と持った会話の引用です。笑ってください!

    Prof A: PhD is an octopus that takes over your life, eats your children, and divorces your partner.
    (教授A:博士課程はタコの怪物みたいなもんだよ。君の生活を奪い、子供を食べ、配偶者を離婚させるんだ。)
    Prof B: A friend of mine actually did do that. Somehow they stuck together while she was writing the thesis but when she passed, they immediately split up.
    (教授B:実際私の友人もそうだったわ。博士論文書いている時はまだ一緒だったんだけどね、通った途端離婚よ。)
    Prof A: My supervisor once told me ‘your wife can divorce you and take your child away but your Dr title stays.’
    (教授A:僕自身の指導教官も言っていたんだ。「君の奥さんは離婚して子供を連れ去っていってしまうが、君には博士号が残る」って。)
    Me: Hmmm not sure which one’s more important to me….
    (筆者:ええと、どっちが大事とはっきりいえないんですけど・・・)
    Prof A: Why aren’t you?!
    (教授A:どうして言えないんだい?!)

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